統合失調症になるまで、
私は「幻聴」という言葉を知ってはいました。
でも、
実際に本人にはどう聞こえているのか
について考えたことはありませんでした。
誰もいないのに、人の声が聞こえる。
そんな単純なイメージを持っていたと思います。
ところが家族が初発を経験すると、
そんなに分かりやすいものではありませんでした。
本人の独り言が急に増えた。
誰かと会話しているようにも見える。
でも本当に何か聞こえているのかは分からない。
そして入院後に本人から、
「幼い頃から頭の中がにぎやかだった」
という思いがけない話も聞きました。
私はそこで初めて、
「幻聴って何なんだろう」
と真剣に調べ始めました。
統合失調症では幻聴だけでなく、抑うつや希死念慮などにも注意が必要になることがあります。わが家でも主治医からその可能性について説明を受け、本人に直接確認しました。
▶ 統合失調症で「死にたい気持ち」は起こる?希死念慮を知って家族として腹をくくったこと
統合失調症の「幻聴」とは?
幻聴は「幻覚」の一つです。
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は、幻覚を、実際には存在しないものを存在するように感じる知覚の異常と説明しており、統合失調症では特に、自分の悪口やうわさなどの声が聞こえる幻聴がしばしばみられるとしています。
厚生労働省も、統合失調症では、ほかの人には聞こえない声が聞こえる「幻聴」が現れやすい症状だと説明しています。
本人にとっては「本当に聞こえている」
ここが家族として理解しにくかったところです。
私たちには聞こえない。
だから、
「何も聞こえてないよ」
と言いたくなります。
でも、幻覚や妄想は、本人には現実のことのように感じられるため、病気によるものだと気づきにくいことがあります。
つまり、
本人が「聞こえる」と言っているものを、単なる思い込みとして扱うのは違う
のだと知りました。
声の内容は人によって違う
厚労省の家族・若者向け情報では、幻聴として、一人または複数の声が聞こえ、その人の行動について話したり、脅すような内容になったりすることがあると紹介されています。
ただし、
すべての人が同じ声を聞くわけではありません。
聞こえ方も、
内容も、
頻度も、
本人によって違います。
わが家で最初に目立ったのは「独り言」だった
入院の数日前、
本人の独り言が急に増えました。
それまでは、
オンライン講座を受けている時などは、
静かに集中するタイプでした。
ところが、ある日から、
私がイヤホンをして作業していても気になるほど、
ぶつぶつと話すようになりました。
→ 入院4日前|独り言が急に増え、会話がかみ合わない。「明らかにいつもと違う」と感じた日
「誰かと話している?」と思うほどだった
翌日にはさらに増えました。
ほとんど一日中話している。
こちらから質問すると答える。
その一方で、別の何かにも反応しているように見える。
私は当時、
「複数人と同時に会話しているみたい」
と思いました。
でも、
その時に本人へ、
「何か声が聞こえているの?」
と詳しく確認したわけではありません。
だから、
あの独り言が幻聴への反応だったのかどうかは分かりません。
独り言=幻聴、と決めつけないようにしている
これは今も大事にしています。
後から統合失調症と分かったからといって、
当時の行動を全部、
「これは幻聴」
「これは妄想」
と分類することはできません。
厚労省も、統合失調症では幻覚・妄想だけでなく、考えの混乱など複数の症状がみられると説明しています。
なので私は、
独り言が非常に増えた、という観察事実だけを残す
ようにしています。
入院後、「いつから頭の中がにぎやかだった?」と聞いた
入院後、本人が少し落ち着いてから、
私は聞いたことがあります。
「いつ頃から、頭の中がにぎやかだったの?」
私は、
今回の発症前後の話が返ってくると思っていました。
でも、本人が話したのは、
もっとずっと前でした。
幼い頃から「声」のような体験があったらしい
本人の記憶では、
幼い頃から、
声のようなものを感じることがあったらしいのです。
私は、それまで知りませんでした。
家族に相談されたこともありませんでした。
本人は普通に会話をし、
学校へ行き、
勉強していました。
私には、
そんな体験があるようには見えていませんでした。
本人にとっては「昔からあるもの」だったのかもしれない
幼い頃からある感覚なら、
本人には、
それが特別なことなのかどうかさえ分からなかった可能性があります。
他人の頭の中は見えません。
「普通の人には聞こえない」
ということ自体、
本人が知らなかったのかもしれません。
これは私の推測です。
でも、
なぜ長い間家族に言わなかったのか
を考える時、
「本人にとって当たり前だった可能性もあるのかな」
と思うようになりました。
「幼い頃から声が聞こえた=幼い頃から統合失調症」ではない
ここは、何度でも書いておきたいところです。
本人が幼い頃から声のような体験をしていたとしても、
私は、
幼い頃から統合失調症だった
と判断しているわけではありません。
統合失調症の診断は、幻聴一つだけで決まるものではありません。
NCNPは、統合失調症には幻覚・妄想などの陽性症状だけでなく、意欲低下や感情表現の減少といった陰性症状、さらに集中力・記憶力・計画や問題解決などの認知機能の問題もあると説明しています。
家族が過去を診断することはできない
今の病名を知ると、
過去の体験にも意味をつけたくなります。
「あれが最初だった?」
「あの頃から病気だった?」
どうしても考えます。
でも私は、
そこには答えを出さないようにしています。
本人が、
「幼い頃からそういう体験があったと今話している」
それ以上でも、それ以下でもありません。
この話が私の病気への向き合い方を変えたことについては、別の記事に書きました。
→ 「ならない前には戻らないし」本人の言葉で、統合失調症への向き合い方が変わった
本人には「今回の病気で腑に落ちた」部分もあった
本人は、
今回の病気を経験して、
昔から謎だったことが、
いろいろ腑に落ちたというような話をしました。
私は、
その言葉がとても印象に残っています。
家族には突然でも、本人には違ったのかもしれない
私から見ると、
統合失調症は数日で突然現れました。
でも本人には、
ずっと前から説明のつかない体験があった。
それに初めて、
「これはこういうことだったのかもしれない」
という説明がついた。
そういう感覚なのかもしれません。
私は、
本人が少し安堵しているように感じることさえあります。
もちろん、
これは私から見た印象です。
本人の本当の感覚は本人にしか分かりません。
幻聴の内容より「どれくらい困っているか」を知りたい
家族としては、
どうしても聞きたくなります。
「何て言われているの?」
「誰の声?」
「いつから?」
「何人いるの?」
でも最近は、
内容を全部聞き出すことより、
本人がその体験によってどれだけ困っているか
の方が重要なのではないかと思うようになりました。
怖いのか、邪魔なのか、慣れているのか
同じ「声が聞こえる」でも、
本人にとっての意味は違うと思います。
怖くて仕方がないのか。
勉強や会話の邪魔になるのか。
眠れなくなるのか。
それとも、
昔からあって本人はある程度慣れているのか。
家族が知りたいことと、
治療上重要なことは、
必ずしも同じではないのかもしれません。
危険につながる内容なら医療者に伝える
一方で、
声の内容によって本人や他人の安全が心配される場合は、別だと思います。
NCNPは、例えば幻聴の命令に従って他人を傷つけようとするなど、他者への危害の危険が高い場合には、入院治療が検討されることがあると説明しています。
本人や他人の安全に関わる内容がある場合には、
家族だけで判断せず、
主治医など医療者に伝えることが大切だと思います。
「聞こえてないよ」と言えばいいのか
妄想の時と同じで、
幻聴についても家族は迷います。
本人が、
「声が聞こえる」
と言ったら、
何と返せばいいのか。
家族には聞こえないことは伝えられる
私は、
本人が聞こえるという体験そのものを否定する必要はないと思うようになりました。
例えば、
「私には聞こえないけど、あなたには聞こえているんだね」
という言い方なら、
家族側の現実も、
本人の体験も、
どちらも嘘にしなくて済みます。
「そんな声ない!」
と争う必要もない。
一方で、
「本当に誰かが話しかけているんだね」
と幻聴の内容を事実として肯定する必要もありません。
家族にできるのは、本人の困りごとを聞くこと
私なら今は、
「怖い?」
「眠れる?」
「今も聞こえている?」
「先生に伝えようか?」
ということを聞くと思います。
そして、
本人が困っているなら医療者に共有する。
その方が、
声の正体について家族同士で議論するより、
ずっと現実的だと思っています。
幻聴だけが統合失調症ではない
統合失調症というと、
どうしても幻聴と妄想に目が行きます。
私も最初はそうでした。
でも入院後、
本人を見ていると、
それ以外の変化にも気づくようになりました。
集中する力。
記憶する力。
文章を理解する速さ。
考えをまとめる速さ。
日常の行動に移るまでの時間。
NCNPも、統合失調症では幻覚・妄想などの陽性症状に加え、認知機能の低下が重要な症状として知られていると説明しています。
→ 統合失調症の認知機能障害とは?記憶・注意・処理速度について家族が調べたこと
今振り返って思うこと
私が最初に見たのは、
急に増えた独り言
でした。
その時は、
幻聴なのかどうかも分かりませんでした。
そして入院後に本人から、
幼い頃から頭の中がにぎやかだったという話を聞きました。
家族が知っている本人と、
本人だけが知っている本人。
そこには、
思っていたより大きな差がありました。
幻聴について調べて、
私が一番大切だと思ったのは、
家族が「本当か嘘か」を決めることではない
ということです。
私には聞こえない。
でも本人には聞こえる。
そして、その体験によって本人が苦しんでいるなら、
治療につなげる。
家族としてできることは、
まずそこなのだと思っています。
次の記事では、
統合失調症になってから私が特に気になっている、
記憶・注意・処理速度などの認知機能
について整理します。
→ 統合失調症の認知機能障害とは?記憶・注意・処理速度について家族が調べたこと


コメント