子どもが精神科へ入院して、しばらくした頃。
私は、毎日のようにお茶を病院へ持って行っていました。
本人が、ペットボトルのお茶を嫌がっていたからです。
家で作ったお茶なら、安心して飲める。
そう言うので、800mlの水筒を2本にしたり、昔部活で使っていた2Lの大きな水筒を使ったりしていました。
ところがある日、気づきました。
あれ?
水筒だけじゃなく、予備のペットボトルも減ってる。
話を聞いて計算すると、どうやら一日に、3L近く飲んでいる。
私は、びっくりしました。
もともとは、ペットボトルのお茶を嫌がっていた
入院直後の本人は、ペットボトル飲料をかなり嫌がっていました。
もともと、化学や食品について関心が強く、ペットボトル由来の微細なプラスチックなどを気にするところがありました。
そして急性期には、その「できれば避けたい」が、かなり強い不安になっていたように見えました。
だから私は、家でお茶を作って、毎日持って行っていました。
麦茶。
ウーロン茶。
あずき茶。
タンポポ茶。
どくだみ茶など。
その時々で、いろいろです。
予備として、500mlのペットボトルのお茶も何本か置いていました。
でも、本人が嫌がっていたので、あくまで非常用のストックのつもりでした。
ところが、予備のお茶まで飲んでいた
それが、いつの間にか減っている。
本人に聞くと、普通に飲んでいました。
「え、ペットボトルも飲めるようになったの?」
という驚きもありましたが、それ以上に、量が気になりました。
2Lの水筒。
さらに、
500mlのペットボトルが何本か。
全部ではないにしても、話を合わせると、一日に3L近い。
そんなに飲んでるの?
と私は思いました。
「病院、暇なんだよね」
最初、私は、薬で喉が渇いているのかな、と思いました。
あるいは、便秘があったので、本人なりに水分を多く取ろうとしているのかな、とも考えました。
でも本人に聞くと、返ってきた答えは、もっと単純でした。
「病院、暇なんだよね〜」
でした(笑)。
暇だから、お茶を飲んでいた
本人いわく、やることがない。
暇。
だから、お茶を飲む。
また暇。
また飲む。
そんな感じだったようです。
本人自身も、便秘対策のつもりで水分を意識していたようですが、それだけでもなかった。
暇つぶしとして飲んでいた
という部分も、本人の中では大きかったようです。
おやつはあるのに、そっちには手が伸びない
面白いのが、病室には、本人が食べられそうなおやつも置いてありました。
小麦や乳製品、添加物などを避けていたので、本人が食べられるものを選んで、おせんべいや羊羹なども、それなりの量を置いていました。
でも、そちらには、あまり手が伸びない。
食欲はない。
なのに、お茶は飲む。
食べないけど、飲む。
という状態でした。
「食欲じゃなくて、お茶欲だったのかな」と主治医と笑った
本人が夜に飲んでいた薬については、食欲が増すことがある、という説明を受けていました。
オランザピンは現在も統合失調症に用いられる抗精神病薬です。
薬の副作用については製品ごとの添付文書や患者向医薬品ガイドで確認する必要があります。
ところが本人は、なかなか食欲が増えませんでした。
入院直後は、そもそも食事を取ること自体が大変でした。
その一方で、お茶だけはどんどん飲む。
主治医と話していて、
「食欲じゃなくて、お茶欲だったのかな(笑)」
というような話になりました。
もちろん、食欲が増える代わりに多飲になった、
という意味ではありません。
単に、本人にはこの時、「食欲が増えた」という感じはなく、その一方で、お茶をよく飲んでいた。
という話です。
便秘もあって、水分を取ろうとしていた
この頃、本人には、もう一つ困りごとがありました。
便秘です。
それまで本人は、ほとんど便秘に悩むタイプではありませんでした。
それなのに、入院してから、お腹が痛い。
出ない。
かなり気になる。
という状態になっていました。
→ 【関連記事】
入院13日目|「頭が痛くない日は、お腹が痛い」今度は便秘が本人を悩ませ始めた
本人としては、
「水分を取った方がいい」
と考えて、意識してお茶を飲んでいた部分もあったようです。
暇だから飲む。
便秘だから飲む。
いくつか理由が重なって、結果的にかなりの量になっていたのだと思います。
私には、昔の実習の記憶があった
3L近く飲んでいると気づいた時、私の中に、ずっと昔の記憶が戻ってきました。
私は以前、精神疾患のある方が生活する施設で、実習した経験があります。
その時、スタッフから、水分をたくさん取らせすぎないように、という話を聞いた記憶がありました。
私の記憶では、
「水を飲みすぎると、薬が薄まって効きにくくなるから」
というような説明でした。
だから私は、
「そんなに水を飲んだら、薬の濃度、大丈夫なの?」
と心配になりました。
改めて調べると、「薬が薄まる」だけの話ではなかった
ここは、当時聞いたことと、今調べて分かったことを、分けて書いておきます。
私が実習で聞いた、
「大量に水を飲むと薬が薄まる」
という説明を、そのまま一般的な医学情報として受け取るのは適切ではありません。
精神科領域で大量の水分摂取が問題になる時に、特に重要なのが、
低ナトリウム血症や水中毒
です。
日本神経精神薬理学会の統合失調症薬物治療ガイドライン2022でも、抗精神病薬治療中のさまざまな身体的副作用や合併症への対応が扱われています。最新版は2025年12月にも改訂されています。
統合失調症では「多飲」が問題になることがある
統合失調症のある人の中には、必要以上に水分を摂取する、
いわゆる多飲がみられる人がいます。
ただし、その原因を、一つに決めることはできません。
本人の場合も、私は最初、
「薬で喉が渇くから?」
と思いました。
でも、本人は、
「暇だから飲んでた」
とも言う。
便秘対策のつもりもあった。
いくつかの要因が、重なっていた可能性があります。
「3Lなら危険」「2Lなら安全」と単純には言えない
本人が3L近く飲んでいることを主治医に相談した時、本人については、
「3Lは多い」
という話になりました。
ただ、これを、
誰でも3Lなら多すぎる
全員2Lまでにすればいい
という一般的な目安として書くつもりはありません。
必要な水分量は、
体格、
食事、
気温、
運動量、
腎機能、
持病、
服用している薬などでも変わります。
だから、精神科に入院中で、急に水分摂取量が増えた場合は、家族だけで量を決めるより、
本人が一日にどのくらい飲んでいるかをスタッフや主治医に伝える
方が大事だと思います。
大きな水筒が、思わぬところで役立った
本人がペットボトルを嫌がったことで、私は仕方なく、毎日水筒を持って行きました。
でも結果的に、これがかなり役立ちました。
飲んだ量が分かりやすかった
からです。
2Lの水筒が空。
さらに、ペットボトルも減っている。
だから、
「え、こんなに飲んでる?」
と気づけました。
もし、小さな紙コップや、病棟の給水だけで飲んでいたら、私はここまで分からなかったかもしれません。
ただし「水筒=多飲対策」ではない
大きな水筒を使えば、多飲が防げる、という話ではありません。
うちの場合は、
「一日にどのくらい飲んだか把握しやすかった」
というだけです。
本人が安心して飲めるものを持って行けたことと、量が見えやすかったこと。
その二つの意味で、水筒は役立ちました。
→ 【関連記事】
精神科入院中に持って行って役立ったもの・合わなかったもの|水筒、耳栓、ドリル、塗り絵まで
「暇」も本人にとっては、かなり大きな問題だった
この出来事を思い出すと、多飲そのものとは別に、私は、精神科入院中の暇についても考えます。
本人は何度も、「暇」と言っていました。
平日はOTがあります。
でも、ずっと何かしているわけではありません。
休日は、さらに暇。
活字を読むと疲れる。
パズルも難しい。
テレビもずっとは見られない。
そんな時に、お茶を飲む。
本人にとっては、それも時間をつぶす方法の一つだったのでしょう。
だから、
「水を飲みすぎるから飲ませない」
だけではなく、
何でそんなに飲んでいるのか
を見る必要もあるのだと思いました。
本人の場合は、「暇」という、ものすごく日常的な理由もありました。
家族が気づいたら、量と様子をそのまま伝える
私がこの経験から思うのは、家族が、
「ちょっと多くない?」
と気づいた時には、理由を自分で決めつけるより、まず事実を伝えることです。
2Lの水筒が空になります。
予備の500mlも飲んでいます。
本人は一日これくらい飲んでいると言っています。
そういう、
具体的な情報です。
薬の副作用なのか。
病気との関係なのか。
便秘対策なのか。
単純に暇なのか。
それを判断するのは、医療者と相談してからでいい。
私は、今回の入院で、そういうことを何度も学びました。
今振り返って思うこと
入院直後、本人はペットボトルのお茶すら怖がっていました。
だから私は、毎日、家でお茶を作って持って行きました。
それが、少しずつ落ち着いてきて、気づけば、ペットボトルまで飲めるようになっている。
そこだけ見れば、うれしい変化でした。
ところが、今度は、飲みすぎ問題。
一日に、おそらく3Lほど。
本人に聞けば、
「病院、暇なんだよね〜」
です。
おせんべいも、羊羹も置いてある。
でも、食べない。
お茶は飲む。
食欲は増えない。
主治医とは、
「食欲じゃなくて、お茶欲だったのかな(笑)」
と少し笑いました。
でも、家族としては、笑って終わりでもありません。
水分を多く取ることには、状況によって注意が必要です。
そして、昔の私は、
「水を飲むと薬が薄まる」
と覚えていましたが、改めて調べてみると、大量の水分摂取では、水中毒や低ナトリウム血症など、別の身体的なリスクにも注意が必要だと分かりました。
本人の場合、何がどこまで影響していたのかは、私には分かりません。
ただ、
「水分を取るのは体にいいから、多ければ多いほどいい」
というほど単純でもないんだな。
それを知った出来事でした。
そして何より、本人の一言。
「病院、暇なんだよね〜」
統合失調症について調べると、難しい医学用語がたくさん出てきます。
でも、実際の入院生活では、案外、こんな理由も混ざっている。
そこが、本人と一緒に生活してみないと分からないところなのだと思います。
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※水分摂取量については、体格や身体状態、服薬などにより適切な量が異なります。急に水分摂取が増えた場合や、体調変化がある場合は主治医などの医療専門職へご相談ください。


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