本人の様子がおかしくなり、
「精神科へ行こう」
と決めた頃、私はあることが気になりました。
家族歴です。
本人の家族には、精神疾患の治療を受けたことのある人がいました。
だから、
「これって遺伝なの?」
と思いました。
統合失調症について何も知らなかった私は、最初、
「精神疾患は遺伝する」
という単純なイメージを持っていました。
でも調べてみると、そんな簡単な話ではありませんでした。
家族歴について考える中で、私自身が避けて通れなかったのが「自死」という問題でした。統合失調症と希死念慮について、家族として考えたことはこちらにまとめています。
▶ 統合失調症で「死にたい気持ち」は起こる?希死念慮を知って家族として腹をくくったこと
統合失調症は「遺伝病」なの?
結論からいうと、統合失調症には遺伝的な要因が関係しています。
でも、
「親に精神疾患があるから、子どもも必ず統合失調症になる」
という病気ではありません。
研究では、統合失調症は多くの遺伝的要因と環境要因が複雑に関係して発症すると考えられています。
一つの遺伝子で決まる病気ではない
例えば、ある遺伝子を持っていれば必ず発症する。
持っていなければ絶対に発症しない。
そういう単純な仕組みではありません。
統合失調症は、非常に多くの遺伝的な違いが少しずつ関係し、そこに環境要因なども組み合わさる、
多因子性の病気
と考えられています。
「遺伝する」のは病気そのものというより“なりやすさ”
家族研究や双生児研究では、血縁関係が近い人に統合失調症があると、発症リスクが高くなることが知られています。
ただし、受け継ぐのは、
「統合失調症そのもの」
というより、
発症しやすさの一部
と考えた方が分かりやすいようです。
「遺伝率80%」ってどういう意味?
統合失調症について検索すると、
「統合失調症 遺伝率80%」
という数字を目にすることがあります。
私も最初にこの数字を見た時、
「親から子へ80%の確率で遺伝するってこと?」
と驚きました。
でも、これはまったく違う意味でした。
遺伝率80%=子どもが80%発症する、ではない
「遺伝率」というのは、ある集団の中で見られる個人差のうち、どのくらいが遺伝的な違いで説明できるか、という統計的な概念です。
つまり、
親が統合失調症なら子どもが80%の確率で発症する
という意味ではありません。
これは、かなり誤解しやすいところだと思います。
遺伝率が高くても、発症を個人単位で予測できない
研究では、統合失調症の遺伝率は高いとされています。
でも、遺伝的要因だけを見て、
「この人は将来統合失調症になる」
と正確に予測することはできません。
私にとっては、ここを知ったことが大きかったです。
「遺伝がある」
と、
「運命が決まっている」
は、まったく違う話でした。
家族に精神疾患があると、どのくらいリスクが上がる?
家族に統合失調症の人がいる場合、一般の人より発症リスクは高くなります。
家族研究では、血縁関係が近いほどリスクが高くなる傾向が報告されています。
それでも「発症しない人」の方が多い
例えば、親やきょうだいなど近い血縁者に統合失調症があっても、その人自身が必ず発症するわけではありません。
研究で示されるリスクは、一般人口より高い。
でも、
発症しない人もたくさんいる。
ここはとても重要だと思います。
家族歴は「原因」ではなくリスク要因の一つ
私は最初、
「家族に精神疾患があったから、この子もなったの?」
と考えました。
でも、今はそう単純には考えていません。
家族歴は、発症しやすさに関わる要素の一つ。
そこに、さまざまな要因が組み合わさって、結果として発症することがある。
統合失調症の原因は今も完全には分かっておらず、厚生労働省も発症の原因はよく分かっていないとしています。
「親のせいなの?」という気持ちは出てくる
統合失調症について検索すると、
「統合失調症 親が原因」
「統合失調症 親のせい」
という言葉も出てきます。
これを検索する家族の気持ちは、分かる気がします。
私も、本人が発症してから、過去をたくさん振り返りました。
育て方が悪かったのか、と考えてしまう
あの時、もっと違う接し方をしていたら。
進路はこれでよかったのか。
頑張らせすぎたのか。
ストレスをかけたのか。
親なら、いろいろ考えてしまいます。
でも、統合失調症は、
一つの育て方や一つの出来事だけで起きる病気ではありません。
遺伝的な要因も、環境要因も、その他さまざまな要素も関係する、複雑な病気と考えられています。
「誰のせいか」を探しても答えは出なかった
私は、原因を見つけたかったのだと思います。
原因が分かれば、納得できる気がしたからです。
でも、調べれば調べるほど、
「これが原因です」
という答えはありませんでした。
だから最近は、
「誰のせいだったのか」
より、
「これからどうしていくか」
を考えるようになりました。
→ 「ならない前には戻らないし」本人の言葉で、統合失調症への向き合い方が変わった
家族歴を知ること自体には意味がある
では、家族歴は気にしなくていいのか。
というと、それも違うと思います。
家族歴は、医療者が本人の状態を考える時の情報の一つになります。
受診時に家族歴を聞かれることがある
精神科では、本人だけでなく、家族にどんな病気があったかを聞かれることがあります。
わが家でも、受診を考えた時に、家族歴の話が出ました。
その時私は、初めて、
「ああ、これも医師に伝えた方がいい情報なんだ」
と思いました。
家族歴があっても、診断が決まるわけではない
一方で、家族に精神疾患があるから、それだけで統合失調症と診断されるわけではありません。
実際の診断では、本人にどんな症状があるのか、どのくらい続いているのか、生活にどんな影響が出ているのかなどを含めて判断されます。
家族歴は、あくまでその中の一つの情報です。
「遺伝ではない」と言われたのに、家族歴は詳しく聞かれた
初めて精神科を受診したとき、私は家族歴のことを伝えました。
そのとき医師からは、
「今は、統合失調症を単純に“遺伝する病気”とは言わない」
という趣旨の説明を受けました。
私はそれを聞いて、
「じゃあ、家族歴はそこまで関係ないのかな」
と思いました。
ところが、そのあと医師からは、本人の父親についてかなり詳しく聞かれました。
父親には精神疾患の治療歴があり、私は「うつ病だったと聞いています」と答えました。
それでも、
「統合失調症ではなかったですか?」
という確認が何度かありました。
正直、そのとき私は、
「遺伝するとは言わないのに、ものすごく家族歴を聞くんだな」
と思いました。
少し矛盾しているようにも感じました。
「遺伝病ではない」と「家族歴が大事」は両立する
後から調べて、私は少し整理できました。
統合失調症は、
親から子へ一つの遺伝子によってそのまま受け継がれる、という意味での単純な遺伝病ではありません。
一方で、遺伝的な要因が発症しやすさに関係することは知られています。
だから医師にとっては、
「家族にどんな精神疾患があったか」
「どんな経過だったか」
という情報も、本人の状態を考える材料の一つになります。
つまり、
「遺伝だけで決まる病気ではない」
ことと、
「家族歴は診療上の大切な情報」
であることは、矛盾する話ではありませんでした。
家族歴を聞かれたからといって、親から遺伝したと決まるわけではない
ここも、私は大事だと思っています。
医師から家族について詳しく聞かれると、
「やっぱり遺伝なんだ」
と思いたくなります。
でも、それだけで、
「父親から本人に統合失調症が遺伝した」
と結論づけることはできません。
家族歴はあくまで、診断や経過を考えるための情報の一つ。
本人にどんな症状があるのか。
どんな経過をたどっているのか。
ほかに考えられる要因はないか。
そうしたことと合わせて見ていくものなのだと、今は理解しています。
わが家では「遺伝なのか」を考えたことで、逆に少し楽になった
これは少し不思議なのですが、遺伝について調べたことで、私は逆に、
「親が何か一つ間違えたから起きたわけではないんだ」
と思えるようになりました。
「原因探し」から離れられた
遺伝的な要因がある。
でも、遺伝だけで決まるわけではない。
環境だけでもない。
一つの出来事だけでもない。
そう知ると、
「ここを直せば防げたはず」
という考えから、少し離れることができました。
発症した事実より、これからの生活を考える
遺伝の話を知ったところで、過去には戻れません。
本人も、以前、
「それを言ったところで、ならない前には戻らないし」
と言いました。
その言葉どおり、今できるのは、原因を一つに決めることではなく、治療を続けること。
本人に合う生活を探すこと。
再発しにくい環境を整えること。
そういうことなのだと思います。
親・きょうだい・子ども・孫・いとこではリスクは違う?
統合失調症について調べると、
「統合失調症 遺伝 兄弟」
「統合失調症 遺伝 孫」
「統合失調症 遺伝 いとこ」
といった検索もあります。
家族に統合失調症の人がいると、
「ほかの家族は大丈夫なの?」
と心配になるのは自然なことだと思います。
私も、遺伝について調べ始めると、
「血縁が近いほどリスクは高いの?」
「孫ならどうなの?」
と気になりました。
血縁関係ごとの研究で報告されているリスクについては、こちらの記事でもう少し詳しくまとめました。
▶ 統合失調症は兄弟・子ども・孫・いとこにも遺伝する?血縁別の発症リスクを調べた
血縁が近いほど、発症リスクは高くなる傾向がある
研究では、統合失調症のある人と血縁関係が近いほど、一般人口と比べて発症リスクが高くなる傾向が知られています。
たとえば、親、きょうだい、子どもなど近い血縁者では、一般人口よりリスクが高くなります。
一方、孫やいとこなど、血縁関係が遠くなれば、一般にはそのリスクも低くなる傾向があります。
ただし、
「孫なら必ず○%」
「いとこなら○%だから安全」
というように、一人ひとりの発症確率を正確に決められるものではありません。
研究によって数字にも幅がありますし、
遺伝的な要因だけでなく、さまざまな要因が関係します。
大切なのは、
家族歴があると可能性は上がることがある。
でも、
家族歴だけで将来が決まるわけではない。
ということだと思います。
「結婚したら子どもに遺伝する?」という心配もある
「統合失調症 遺伝 結婚」
という検索もあります。
本人が将来結婚するとき、
「子どもにも遺伝するのでは?」
と本人や家族が心配することもあると思います。
統合失調症には遺伝的な要因が関係するため、家族歴がない場合と比べれば、子どもの発症リスクが高くなる可能性はあります。
でも、
「統合失調症の人が子どもを持てば、その子も統合失調症になる」
という意味ではありません。
家族歴があっても発症しない人はたくさんいます。
また、本人が結婚できるか、子どもを持てるかということと、統合失調症という診断があることは別の話です。
将来、妊娠や家族計画について具体的に考える時期が来て、本人が遺伝リスクについて詳しく知りたいと思った場合には、主治医や遺伝カウンセリングなどに相談する方法もあります。
今の段階で私は、
「遺伝するから将来はこうなる」
と先回りして決める必要はないと思っています。
神経発達仮説を知って、遺伝の見方も変わった
私は統合失調症について調べる中で、「神経発達仮説」という考え方も知りました。
統合失調症は、幻聴や妄想が現れた日に、突然ゼロから始まる病気ではなく、脳の発達過程や遺伝的要因、環境要因などが複雑に関係している可能性が研究されています。
→ 統合失調症はいつから始まる?「神経発達仮説」を知って過去を振り返った
幼少期の出来事を全部「遺伝の証拠」にしない
本人から、幼い頃から
「頭の中がにぎやかだった」
という話を聞いたこともあります。
でも、それを聞いたからといって、
「やっぱり遺伝だったんだ」
とは考えていません。
幼少期の体験も、学習の得意不得意も、家族歴も、今の診断を知った後からなら、何でも一本の線につなげたくなります。
でも、そこは慎重でいたいと思っています。
今振り返って思うこと
本人が統合失調症になった時、私は、
「どうしてこの子なんだろう」
と思いました。
そして、家族歴を思い出すと、
「遺伝だったの?」
とも思いました。
でも調べた今は、少し考え方が変わっています。
遺伝的な要因はある。
家族歴があるとリスクは上がる。
でも、
それだけで発症が決まる病気ではない。
そして、誰か一人のせいでもない。
私にとって、そこが一番大切でした。
今は、過去の原因を一つに決めることより、本人がこれからどう暮らしていくかを考えたい。
家族歴は、本人を責める材料でも、親を責める材料でもなく、
治療を考える時に医療者へ伝える情報の一つ。
私は今、そんなふうに考えています。
次は、初めて入院する時に言われて、私はその意味すらよく分からなかった、
「医療保護入院」
について書こうと思います。


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