統合失調症と聞いて、私が最初に思い浮かべたのは、幻聴と妄想でした。
実際、わが家の初発でも、現実とは違うことを強く信じるようになったり、
独り言が急に増えたりしました。
でも入院して少し経った頃から、私はそれとは違うところが気になるようになりました。
「あれ? 前ならもっとすぐ分かったんじゃないかな」
ということが、時々あったのです。
例えば数独。
その日の夕方には、説明を読んでもルールがうまく入らないように見えました。
ところが翌朝になると、同じ数独を理解して、6問も集中して解いていました。
オセロも、最初は少し戸惑っていました。
でも2、3回すると普通にできるようになった。
ただ途中で、
「私、白だっけ?黒だっけ?」
と確認することもありました。
これを見て私は、
「記憶力が悪くなったの?」
「理解する力が落ちたの?」
と心配になりました。
そこで初めて知ったのが、統合失調症の
「認知機能障害」
という言葉でした。
統合失調症には「認知機能」の変化もある
統合失調症の症状というと、幻聴や妄想などの陽性症状、意欲低下や感情の変化などの陰性症状がよく知られています。
でも、それだけではありません。
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は、統合失調症では、記憶や注意力、計画性などの認知機能にも障害がみられることがあると説明しています。
認知機能は、金銭管理やコミュニケーションなどの日常生活技能とも関係します。
認知機能は「頭の良さ」そのものではない
最初、私は、認知機能障害という言葉を見て、
「知能が落ちるということ?」
と思いました。
でも調べてみると、そんな単純な話ではありませんでした。
認知機能には、情報を処理する速さ、注意を向け続ける力、一時的に情報を覚えながら使う力、言葉や図から学ぶ力、計画を立てたり問題を解いたりする力など、いろいろな働きがあります。
研究では、統合失調症で特に、処理速度、注意、ワーキングメモリ、言語・視覚学習、問題解決、社会的認知などが影響を受けることがあるとされています。
「できる・できない」ではなく、機能ごとに違う
ここを知って、私は少し腑に落ちました。
あることはできる。
でも別のことは時間がかかる。
今日は難しい。
でも明日はできる。
そういうことがあっても、
不思議ではないのかもしれない。
私が本人を見て感じた「全部ダメになったわけではない。でも、少し違う」という感覚に近いものがありました。
数独の説明が入らなかった夜、翌朝は6問できた
入院後、本人に数独を持っていったことがあります。
もともと数字には強い人です。
私は、
「こういうのなら気分転換になるかな」
くらいの気持ちでした。
ところがその日の夕方、説明を読んでも、ルールがうまく理解できないようでした。
私は少しショックでした。
「これも分からなくなったの?」と不安になった
本人は昔から、数学や理系科目が得意でした。
だから私は、数独のようなものなら、すぐ分かると思い込んでいました。
でもその時は、説明が頭に入りにくそうでした。
「文章が読めない」「決められない」といった状態は、認知機能だけでなく、抑うつや疲労などでも起こることがあります。陰性症状とうつ病との違いについてはこちらで整理しています。
▶統合失調症の陰性症状とうつ病は似ている?家族から見分けにくい理由
私は内心、
「こんなに理解する力が落ちてしまったの?」
と思いました。
→ 数学・物理・化学は得意、国語と社会は苦手だった|発症後に振り返る昔からの得意不得意
翌朝になると、普通に理解していた
ところが翌朝です。
本人は数独のルールを理解していました。
そして、6問も集中して解いていました。
私は、
「昨日のあれは何だったんだろう」
と思いました。
単純に、
「できなくなった」
ではありませんでした。
その時の体調や疲労、症状、薬の影響など、いろいろなものが重なっていた可能性があるのかもしれない。
そう考えるようになりました。
オセロも、最初は難しくても何回かするとできた
オセロでも似たことがありました。
最初はルールを理解するのに少し時間がかかっていました。
でも、2、3回やると、かなりスムーズにできるようになりました。
覚える力そのものがなくなったわけではなさそうだった
この時、私は少し安心しました。
新しいことを理解するまでに、以前より時間が必要なのかもしれない。
でも、覚えていく力はある。
実際、何度か繰り返すとできるようになりました。
研究上も、統合失調症ではワーキングメモリや学習・記憶、処理速度など複数の領域に影響がみられますが、その程度や組み合わせには個人差があります。
途中で「白だっけ?黒だっけ?」と確認することもあった
一方で、ゲームの途中に、
「私、白だっけ?黒だっけ?」
と確認することもありました。
その場で必要な情報を、一時的に頭に置いておくこと。
こうした働きには、ワーキングメモリが関係します。
私は専門家ではないので、本人のこの行動がワーキングメモリの低下によるものだとは断定できません。
ただ、こういう出来事を見て、
「認知機能というのは、こういう日常の小さなところにも表れるのかな」
と考えるきっかけになりました。
「記憶障害」と聞くと、認知症を想像してしまった
グーグルの検索にも、
「統合失調症 記憶障害」
「統合失調症 物忘れ」
「統合失調症 認知症」
などの検索語が出ています。
私自身も、最初は同じようなことを心配しました。
「これって認知症みたいなものなの?」
と。
認知機能障害=認知症ではない
でも、統合失調症の認知機能障害と、一般にいう認知症は同じものではありません。
統合失調症では、処理速度、注意、ワーキングメモリ、学習・記憶など特定の認知領域に障害がみられることがありますが、その出方は人によって異なります。
だから、少し忘れっぽくなった。
理解に時間がかかった。
それだけを見て、
「認知症になった」
と考えるのは違います。
若いのに「脳がダメになった」と考えなくていい
私が一番怖かったのは、
「病気で頭が壊れてしまったのでは」
ということでした。
でも、実際の本人を見ていると、そんな単純な状態ではありませんでした。
できる時もある。
学習できる。
会話もできる。
時間を置くと理解できる。
こうした姿を見て、私は、
「今見えている苦手さだけで、この先全部を決めない方がいい」
と思うようになりました。
処理速度とは「理解できない」こととは少し違う
認知機能について調べていて、私が特に気になったのが、
処理速度
という言葉です。
「統合失調症 認知機能障害」という検索がありますが、その中でも処理速度は研究でよく取り上げられる認知領域です。
大規模なレビューやメタ解析でも、統合失調症では処理速度が影響を受けやすい領域の一つとして報告されています。
分からないのではなく「時間が必要」なこともある
処理速度が遅くなるというのは、必ずしも、
「理解できない」
という意味ではありません。
情報を受け取って、整理して、答えを出すまでに、以前より少し時間がかかる。
そういうことも含まれます。
これを知った時、私は、数独の時の本人を思い出しました。
その場では理解できなかった。
でも翌朝にはできた。
もしかすると、「できない」と判断するのが早すぎたのかもしれません。
急かすと、本人は余計に大変なのかもしれない
私は元々、答えを早く出したいタイプです。
本人が、
「分からない」
となると、すぐ説明したくなる。
もう一度やらせたくなる。
でも、処理に時間が必要なのだとしたら、
その場で何度も確認するより、少し時間を置いた方がいいこともあるのかもしれません。
これは、私自身が今かなり意識しているところです。
注意力も、日常生活では分かりにくい
認知機能の中には、注意力もあります。
統合失調症では、必要な情報に注意を向けたり、その注意を持続させたりする力に影響がみられることがあります。
集中できる時と、できない時があった
本人を見ていると、集中力が全部なくなったわけではありません。
数独なら、何問も続けてできることがある。
一方で、文章を読んだり、説明を理解したりすることを、とても面倒そうに感じる時もありました。
大人向けの塗り絵やクロスワードを持っていった時も、
「難しい」
という反応でした。
それを見て私は最初、
「やる気がないのかな」
とも思いました。
でも、認知機能という視点を知ってからは、
「今は注意を向け続けること自体が疲れるのかもしれない」
と考えるようになりました。
「できるのにやらない」と決めつけない
これは、これから家族として大切にしたいことです。
以前できた。
だから今もできるはず。
できないなら、本人がやる気を出していない。
そう決めつけるのは危ないと思います。
症状の回復途中では、外からは見えにくい頭の疲れがあるのかもしれません。
認知機能障害は仕事や生活にも関係する
私がこの言葉を特に気にしたのは、この先の生活を考えたからでもあります。
本人はまだ若い。
これから、働くことも、勉強することも、一人で生活することも、考えていかなければなりません。
NCNPは、認知機能の低下が、買い物・洗濯・金銭管理などの日常生活機能や、就労とも関連することを研究しています。
仕事を考える時にも「得意不得意」が大切になる
私は一時、
「何ができるのか早く確認しないと」
という気持ちになりました。
でも今は、急いで能力を測るより、回復を待ちながら、本人の得意なことと苦手なことを少しずつ知る方が大事だと思っています。
以前から得意だったこと。
病気になってから難しくなったこと。
時間をかければできること。
負担が大きいこと。
それを見ながら、
本人に合う生活や仕事を考えていけばいい。
→ 数学・物理・化学は得意、国語と社会は苦手だった|発症後に振り返る昔からの得意不得意
認知機能だけで将来が決まるわけではない
認知機能と社会生活・就労には関連があります。
でも、一つのテスト結果だけで、
「働ける」
「働けない」
が決まるわけではありません。
本人の症状、体力、環境、仕事の内容、支援の有無など、いろいろな要素があります。
だから私は、認知機能障害という言葉を知ったからといって、本人の将来を悲観する必要はないと思っています。
発症前からの得意不得意と、発症後の変化は分けて考えたい
ここは、以前書いた記事ともつながります。
本人は発症前から、得意なことと苦手なことの差がかなりありました。
数学・物理・化学は得意。
国語や社会は苦手。
でも、だからといって、昔から認知機能障害があったと決めつけることはできません。
「昔から苦手」と「今できなくなった」は違う
ここを混ぜると、本人の本来の特徴まで、全部病気のせいにしてしまいます。
元々、文章理解に時間がかかるタイプだったのか。
今回の病気でさらに時間がかかるようになったのか。
それは別の問題です。
統合失調症の研究でも、発症前から認知機能の違いがみられる人がいる一方、その程度や経過には個人差があり、初回エピソード後に改善がみられる領域も報告されています。
家族だから分かる「以前の本人」もある
医療者は、今の本人を評価します。
家族には、病気になる前の本人の記憶があります。
「以前ならこれはすぐできた」
「これは昔から苦手だった」
そういう情報は、本人の変化を見る時に役立つこともあると思います。
ただし、家族の印象だけで診断するものではありません。
気になる変化があるなら、主治医や医療スタッフに伝える。
そこまでが家族にできることだと思っています。
今振り返って思うこと
入院後の本人を見ながら、私は何度も、
「前よりできなくなった」
と思いかけました。
でも、数独は翌朝できた。
オセロは数回やれば覚えた。
会話もできる。
少し時間を置けば理解できることもある。
それを見て、最近は、
「できる・できない」の二択で見ない方がいい
と思っています。
時間が必要なのかもしれない。
疲れているのかもしれない。
今は症状の回復途中なのかもしれない。
薬の影響がある可能性もある。
本人自身にも、うまく説明できないことがあるのかもしれません。
統合失調症の認知機能障害について知ったことで、私は少しだけ、本人を急かさずに見られるようになりました。
そして、病気になる前とまったく同じ状態に戻すことだけではなく、
今の本人の頭の働き方に合う生活を一緒に探す
という考え方ができるようになってきました。
「ならない前には戻らないし」
本人がそう言った言葉を、ここでも思い出します。
→ 「ならない前には戻らないし」本人の言葉で、統合失調症への向き合い方が変わった
これからも、できなくなったことだけではなく、
今もできること、時間をかければできること、そして本人の強み
を見ていきたいと思っています。


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