精神科の「保護室」と聞くと、どんな人が入るのか、何日くらい過ごすのか、医療保護入院になると必ず入るのか――家族としては分からないことだらけでした。
わが子は統合失調症の初発で救急受診し、医療保護入院となったその日に保護室へ入りました。
私は当時、「医療保護入院だから保護室に入るのかな」と思っていましたが、あとから調べると、この二つは別のものだと分かりました。
この記事では、精神科の保護室に入る基準、医療保護入院との違い、保護室で過ごす期間の考え方について、家族として実際に経験した流れを交えながらまとめます。
制度の説明だけでは分かりにくかった部分を、「実際にはどうだったのか」という目線で残しておこうと思います。
精神科の「保護室」には、どんな人が入るの?
わが子が精神科病院へ入院した日。
診察の結果、医療保護入院となり、そのまま病棟の保護室へ入りました。
当時の私は、
「医療保護入院になったから、保護室に入るのかな」
くらいに考えていました。
でも、あとから調べて分かったのは、
「医療保護入院」と「保護室に入ること」は別の話
だということです。
医療保護入院は「どのような形で入院するか」という入院形態。
一方、保護室への入室は、病棟の中で本人や周囲の安全を守るために行われる隔離という行動制限です。
わが子の場合は、この二つが同じ日に起きたため、私の中でもごちゃごちゃになっていました。
この記事では、実際に家族として経験したことと、あとから調べた制度上の違いを整理しておきます。
わが子は救急受診の前から「入院になった場合」を確認されていた
病院へたどり着く前、救急で受け入れてくれる精神科病院を探してもらっている段階で、私はこんなことを聞かれました。
「万が一、入院が必要となった場合はどうされますか?」
私は、「入院が必要なら、入院させてしっかり治療してほしいです」と答えました。
この時点では、まだどの病院に入院するのかも、どんな入院形態になるのかも分かっていませんでした。
ただ、家へ連れて帰れる状態ではない。
治療が必要なら、入院させてもらいたい。
その意思だけは決まっていました。
そのため、実際に病院で入院が必要だと判断されたときには、家族としての意思確認は比較的早く進んだように記憶しています。
病院で「医療保護入院」になると説明された
診察後、医師から説明されたのが医療保護入院でした。
私が当時聞いた説明では、
「今は本人の意思を十分に確認できる状態ではない」
「治療だけでなく、安全を確保して本人を保護する必要もある」
ということでした。
そして念のため、
「入院させることについて、家族として同意しますか」
という意思確認を受けました。
私は同意しました。
そのとき、本人は、
「え?」
というような顔をしていました。
でも、強い頭痛も訴えていましたし、今になって本人に聞くと、病院へ来た日のことはかなり記憶が曖昧だったようです。
私はその場で、家族として書類にも署名しました。
市の保健所など行政側へ提出する関係の書類だと説明された記憶がありますが、当時は頭がいっぱいで、正式な書類名までは覚えていません。
現在、厚生労働省が示している様式にも「医療保護入院に関する家族等同意書」があります。
▶ 実際に医療保護入院が決まった日の記録はこちら
→ 入院1日目③|統合失調症と告げられ、医療保護入院へ。初めて見た保護室
医療保護入院とは「保護室に入れる制度」ではない
ここは、私自身があとから理解したところです。
医療保護入院は、簡単にいえば、本人が任意入院に同意できる状態ではないものの、入院して医療・保護を受ける必要があると判断された場合に行われる入院形態です。
現在の制度でも、本人の同意による任意入院が難しく、入院が必要と判断された場合に、一定の要件のもとで家族等の同意による医療保護入院が行われます。
つまり、
医療保護入院=入院の方法
です。
医療保護入院になったからといって、全員が保護室に入るわけではありません。
▶ 医療保護入院の条件や家族の同意について、詳しくはこちら
→ 医療保護入院とは?家族が実際に経験して初めて調べたこと
保護室は「隔離」という行動制限のために使われる
精神科病院でいう保護室は、一般には、本人の意思だけでは自由に出ることのできない環境で、他の患者さんと離して過ごすために使われる部屋です。
法律・告示上では「保護室」という部屋の名前そのものより、患者の隔離という行動制限について基準が定められています。
厚生労働省の基準では、隔離は、
本人または周囲の人に危険が及ぶ可能性が著しく高く、ほかの方法ではその危険を避けることが著しく困難な場合に、その危険を最小限にして、本人の医療または保護を図るために行うもの
とされています。
そして大事なのは、罰として保護室に入れるものではないということです。
制裁や懲罰、見せしめを目的とした隔離は認められていません。
どんな場合に保護室への隔離が行われるの?
厚生労働省の基準では、隔離の対象となり得る例がいくつか挙げられています。
自分や周囲の安全を守る必要が高い場合
たとえば、
- 自殺企図や自傷行為が切迫している
- 他の患者さんへの暴力や著しい迷惑行為、器物破損などがあり、ほかの方法では防げない
- 不穏、多動、強い興奮などがあり、一般の精神病室では医療や保護が非常に難しい
といった場合です。
ただし、これらに当てはまったら自動的に隔離される、という意味ではありません。
隔離以外によい代替方法がない場合に行われるものとされています。
症状や治療上の事情によって必要になる場合もある
ほかにも、
- 他の患者さんとの関係が本人の病状に著しく悪影響を及ぼす場合
- 身体的な病気もあり、検査や処置などのために隔離が必要な場合
なども挙げられています。
つまり、「暴れる人が入る部屋」とだけ考えるのは違います。
実際には、本人の状態や周囲の状況を含めて判断されます。
では、なぜわが子は保護室に入ったのか
ここについては、私は医師ではないので、「この症状があったから隔離された」と断定することはできません。
ただ、本人の安全を確保するためと聞いた記憶があります。
確かに、家族として見ていた当時の状態は、普段の本人とは明らかに違っていました。
救急で精神科病院へたどり着き、医師からは本人の意思を十分に確認できる状態ではないと説明されました。
本人自身も最近になって、
「病院へ行った日から、保護室に入っていた最初の3日くらいは、ほとんど覚えていない」
と話しています。
ただし、本当に記憶がゼロというわけでもありません。
こちらから、
「あのとき、こんなこと言ってたよ」
「こういうことがあったの覚えてる?」
と具体的に聞くと、
「ああ、それは何となく覚えてる」
というように、断片的な記憶が出てくることもあります。
ですから私は、
「3日間意識がなかった」
とは考えていません。
本人には受け答えもありました。
ただ、本人自身の中には、その時期の記憶がかなり残りにくかったようです。
なぜ記憶が曖昧なのかは、私には分かりません。
精神症状、睡眠不足、強い頭痛、疲労、治療や薬の影響などさまざまな可能性があるため、ひとつの理由に決めつけないようにしています。
保護室に入った=「危険人物」ではない
ここは、家族として強く書いておきたいところです。
保護室に入ったという事実だけを見て、
「暴れたのでは?」
「誰かに危害を加えたのでは?」
と想像する必要はないと思います。
実際、わが子が4人部屋へ移ってから、病棟で保護室へ入っていく患者さんを何人か見かけました。
けれど、私が見た範囲では、暴れているとか、激しく動き回っているとか、そういう印象を受ける人ばかりではありませんでした。
むしろ、
「外から見ただけでは、なぜ保護室が必要なのか分からないこともあるんだな」
と感じました。
入院直後は「何が危険につながるか分からない」と説明された
わが子が保護室に入ったばかりのころ、持ち込める物がほとんどないことについて、看護師さんから説明を受けました。
まだ入院したばかりで、本人がどのような症状なのか、どのような行動をとる可能性があるのか、十分には分からない。
自分を傷つける行為をするタイプなのかどうかも、まだ分からない。
だから、
「何がそのための道具になるか分からないので、念のため保護室の中には入れられません」
という説明でした。
そのため、ブラジャーもそのままでは持ち込めず、
「下着はスポーツブラにしてください」
と言われました。
歯ブラシなどの日用品も、保護室の中には置きません。
本人の荷物は基本的に、すべて部屋の外にあるロッカーで管理されていました。
飲み物も、こちらが持ってきた水筒をそのまま本人へ渡すのではなく、プラスチック製のマグカップに移して、小窓から渡されていました。
その説明を聞いて、私は、
「暴れる人を閉じ込めるためだけの部屋じゃないんだ」
と少しずつ分かってきました。
まだ本人の状態がよく分からない時期だからこそ、何かが起きてからではなく、できるだけ危険につながる物を置かない。
そうやって安全を確保する場所でもあるのだと思いました。
実際の保護室は、想像していたよりずっときれいだった
私が勝手に想像していた「保護室」は、もっと冷たくて、怖い場所でした。
でも、わが子が入った病院の保護室は、ワンルームくらいの広さがあり、とてもきれいでした。
中にあったのは、私が覚えている範囲では、
布団、壁掛け時計、トイレ。
本当に必要最低限の物だけです。
位置関係としては、私にはナースステーションの中に保護室があるようなイメージに見えました。
室内の様子を確認できるカメラもあり、スタッフが安全を確認できる仕組みになっていました。
わが子が入院した病院には、保護室が3部屋ありました。
もちろん、保護室の広さや設備、持ち込める物、荷物の管理方法などは病院によって違うと思います。
ここで書いているのは、あくまでわが子が入院した病院での体験です。
保護室の中に実際に何があり、持ち物や飲み物がどう管理されていたのかは、別の記事に詳しくまとめました。
▶ 精神科の保護室ってどんなところ?実際の部屋・持ち物・面会はこちら
本人が「保護室の方が落ち着く」と言った
そして、私にとって一番意外だったのは、本人自身が、
「保護室の方が落ち着く」
と言ったことでした。
このころの本人は、特に光と音をとてもつらく感じていました。
保護室から4人部屋へ完全に移る前には、少しずつ4人部屋で過ごしてみる時期がありました。
ずっと保護室から一気に大部屋へ移るのではなく、
保護室と4人部屋を行ったり来たりするような時期
があったのです。
4人部屋では、普通の生活音や光でも頭が痛くなった
4人部屋へ行くと、本人は、
「生活音で頭が痛くなる」
「光でも頭が痛い」
と言いました。
そして、ときには自分から、
「保護室に戻る」
と言って戻ることもありました。
4人部屋には、ほかの患者さんの話し声、人が動く音、ドアの音、照明などがあります。
普段なら何でもないような生活の刺激です。
でも、当時の本人には、それさえ大きな負担だったようです。
一方、保護室には余計な物がほとんどなく、人の出入りや生活音も少ない。
本人にとっては、その刺激の少なさが楽だったのだと思います。
「保護室って、本当に休む場所なんだ」
私はそれを見て、保護室に対する印象がかなり変わりました。
もちろん、自由に好きな物を持ち込める場所ではありません。
本人の意思だけで自由に出入りできる場所でもありません。
行動制限を伴う場所であることには変わりません。
それでも、少なくともわが子にとってその時期は、
「怖い部屋」ではなく、光や音から離れて休める場所
でもありました。
本人が自分から「戻る」と言ったのを聞いたとき、
私は初めて、
「保護室って、本当に休むための場所でもあるんだな」
と思いました。
だから今は、
保護室に入った=暴力的だった
保護室に入った=危険人物だった
とは考えていません。
わが子の場合は、入院直後で状態がまだ十分に分からない時期に安全を確保する場所であり、同時に、光や音などの刺激がつらかった本人にとっては、落ち着いて休める環境でもありました。
保護室を出たらそれで終わりではなく、4人部屋で少し過ごしてみて、つらければまた保護室へ戻る。
そんなふうに、少しずつ次の環境へ移っていった時期がありました。
これは、家族として実際に見て初めて知ったことでした。
保護室には何日いなければならない、という決まりはある?
「保護室に入ったら、いつ出られるんだろう」
これは家族として、とても気になることだと思います。
私もそうでした。
でも、保護室について、
「最低○日」
「普通は○日」
という一律の期間が決められているわけではありません。
必要性をその時々の状態から判断していくものです。
また、12時間を超える隔離は精神保健指定医の判断が必要とされ、隔離中も注意深い観察と適切な医療・保護が必要とされています。
わが子の場合に、実際どのくらい保護室で過ごし、どうやって大部屋へ移っていったのか。
それについては別の記事で詳しく書こうと思います。
保護室には一律の「○日で出られる」という期間はありません。わが子の場合は、4人部屋と保護室を行ったり来たりしながら、少しずつ移っていきました。
▶ 精神科の保護室は何日で出られる?わが子が4人部屋へ移るまで
医療保護入院と保護室、私は最初ごちゃごちゃだった
あの日は、救急で病院を探すところから始まりました。
「入院になった場合はどうしますか」
「入院が必要なら、お願いします」
そんなやり取りをしたあと病院へ行き、
医療保護入院と言われ、
家族として署名し、
本人は保護室へ入りました。
全部が一気に起きました。
だから私は、
医療保護入院=保護室
のようなものだと思っていました。
でも違いました。
医療保護入院は本人の同意による任意入院が難しい場合の入院形態。
保護室への隔離は、入院後に本人の医療や保護、安全のため必要性を判断して行われる行動制限。
二つは別々の制度上の判断です。
今なら、それが分かります。
当時の私は、そんなことを調べる余裕もありませんでした。
ただ、
「今はここにいて、治療してもらうしかない」
それだけを考えていました。
▶ わが子が保護室を出て大部屋へ移った日の記録はこちら
→ 入院6日目|保護室前のロッカーが空っぽだった。大部屋へ移った本人と「薬を続けること」を考え始めた日
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