子どもが統合失調症で入院してから、私は薬について、かなり考えるようになりました。
もともと私は、
できることなら薬は少ない方がいい
と思っていました。
本人も同じです。
薬について自分で調べるタイプで、できれば薬には頼りたくない。
そんな考えを持っていました。
だから、精神科へ入院し、毎日抗精神病薬を飲むことになった時、本人も私も、戸惑いがありました。
症状が落ち着いたら、薬は減らせないの?
いつかやめられないの?
そんなことを考えていました。
でも、入院生活が進むにつれて、私の考えは少しずつ変わっていきました。
一番大きかったのは、
「再発」
について知ったことでした。
外泊前、主治医から思いもしなかったことを聞かれた
入院からしばらく経ち、本人が外泊を希望するようになりました。
家へ一度戻ってみる。
私も、
「いよいよそこまで来たんだ」
という気持ちでした。
ところが、外泊を前に、主治医から、本人と私を含めた3人で話をしたいと言われました。
「外泊したあと、必ず病院に戻ってきてくれるよね?」
そこで主治医から、思いもしなかった質問をされました。
「外泊したあと、必ず病院に戻ってきてくれるよね?」
私は、一瞬、何を聞かれているのか分かりませんでした。
私にとって外泊は、あくまで外泊です。
家で少し過ごして、また病院へ戻る。
それ以外、考えたこともありませんでした。
むしろ私は、
「まだこのまま退院させられても困る」
くらいに思っていました。
外泊したまま治療に戻らない人もいると聞いた
主治医の話では、過去に、外泊したあと病院へ戻らず、そのまま治療が途切れてしまった人もいたそうです。
そのため、もし本人に、
「一度家へ帰ったらもう病院へ戻らない」
という気持ちがあるなら、外泊の許可は出せない、という話でした。
私は、かなり驚きました。
そんなことがあるんだ。
私には、まったく想像できていなかったからです。
「私が知らないことが、まだたくさんある」と思った
その少し後、看護師さんから、病院主催の統合失調症の家族会を勧められました。
入院中の家族より、すでに退院した本人を支えている家族の参加が多い、と聞きました。
私は、参加してみようと思いました。
外泊の話があったからこそ、家族会に行ってみたくなった
主治医から、
「外泊したまま戻らなくなる人もいる」
と聞いたばかりです。
私はそれまで、入院中のことしか見えていませんでした。
でも、退院した後には、私が想像していない問題が、まだたくさんあるのかもしれない。
「みんな退院した後、実際どうなっているんだろう」
それを知りたくて、家族会へ参加しました。
そこで聞いたのは、私の想像をはるかに超える話だった
家族会では、さまざまな家庭の経験を聞きました。
症状が強い時に、家の物を外へ投げてしまった人。
「誰かを助けなければならない」
という強い思い込みから、他人の家に大きな被害を与えてしまった人。
警察が何人も対応する状況になった家庭。
私は、圧倒されました。
それまで、子どもが、
「自分が家族に危害を加えた」
と思い込み、警察へ電話したことだけでも、ものすごい出来事だと思っていました。
でも、家族会では、それ以上に大きな出来事を経験している家庭がありました。
ただ、「統合失調症=暴れる病気」ではない
ここは、とても大切なので書いておきます。
家族会で聞いた強いエピソードは、その家庭で実際に起きたことです。
でも、それが統合失調症の人全体に当てはまるわけではありません。
重いエピソードだけを本人の未来に重ねない
家族会から帰る時、私は怖くなりました。
「うちも、いずれこうなるの?」
という気持ちが、一瞬なかったわけではありません。
でも、それは違います。
症状の出方も、経過も、本人の性格も、治療の状況も、家庭環境も違います。
他の家庭の大きな出来事を、そのまま本人の未来に重ねるべきではありません。
家族会で印象に残ったのは「治療がうまくつながっていなかったこと」
一方で、私がとても気になった共通点がありました。
家族会で聞いた重いエピソードの中には、
治療開始が遅れたケースや、
服薬が続いていなかったケース、
症状が十分に抑えられていない時期のケースがありました。
もちろん、数人の家族会の体験だけから、
「薬を飲まなければこうなる」
と一般化することはできません。
でも私は、この時、
治療を途中で切らないことはすごく大事なのではないか
と思うようになりました。
抗精神病薬をやめると、必ず再発するのか
私は、家に帰ってから、また調べました。
薬をやめたら、本当に再発するのか。
どのくらいの人が再発するのか。
そこで初めて、具体的な数字を見るようになりました。
「100%再発」ではない
まず、これははっきりしておきたいところです。
抗精神病薬を中止したら100%再発する、というわけではありません。
初回エピソード後に症状が安定した人を対象とした研究では、薬を中止した人の中にも、再発しなかった人はいます。
日本の「統合失調症薬物治療ガイドライン2022」がまとめた研究では、
12か月時点で、
抗精神病薬を中止した群の再発率は54.3%、
継続した群では24.0%でした。
つまり、
薬をやめた人全員が再発したわけではない。
でも、中止したグループの方が、明らかに再発が多かった。
私は、そこを重要だと思いました。
初回エピソード後は、少なくとも一定期間の維持治療が勧められている
同じガイドラインでは、症状が寛解・安定した初回エピソードの人について、平均的には、少なくとも2年間の抗精神病薬による維持治療が推奨されています。
別の系統的レビューでも、初回エピソード後の再発率は、薬を中止した群で53%、維持治療群で19%でした。
研究によって数字は異なります。
でも、少なくとも、
「症状が消えたからすぐ薬をやめても同じ」ではない
ということは、私にも分かりました。
私の考えが「減薬したい」から「まず再発を防ぎたい」に変わった
私は、それまで、薬の副作用をかなり気にしていました。
本人も、できれば減らしたい。
私も、できれば少なくしたい。
でも、調べていくうちに、優先順位が少し変わってきました。
あの急性期を、もう一度経験させたくない
私は、入院前の本人を見ています。
眠れない。
食べられない。
誰も信じられない。
自分が犯罪を犯したと思い込む。
家族まで疑う。
警察を呼ぶ。
そして、知らない病院の保護室に入る。
本人にとって、どれだけ怖かったのだろう。
私は、
あの状態をもう一度経験させたくない
と思いました。
薬に副作用があるかどうかも大切です。
でも、再び同じような急性期になるリスクも、同じくらい真剣に考えなければいけない。
そう思うようになりました。
「薬を減らすか」ではなく「どう安全に治療を続けるか」
この頃から、私の中では、
「薬を飲む・飲まない」
という二択ではなくなっていきました。
副作用があるなら、主治医に相談する。
量が多いと感じるなら、相談する。
別の薬に変えられるのか、相談する。
減らせる時期が来たら、その時に相談する。
本人や家族だけで勝手に止めない。
その考えに変わっていきました。
「減薬すると脳が壊れる」とは考えないようにしている
当時の私は、再発について調べるうちに、かなり怖くなりました。
「何度も再発したら、脳に取り返しのつかないことが起きるのではないか」
そんな不安も持ちました。
再発は大きな負担。でも単純に「脳が壊れる」とは言えない
再発は、本人にとって大きな負担です。
再入院につながったり、学校や仕事、人間関係、日常生活を再び立て直す必要が生じたりすることがあります。
研究でも、薬を中止した群では、維持治療群より再発や再入院が多いことが示されています。
ただ、
「再発したら脳が壊れる」
と単純に言い切れるものではありません。
私自身も、怖さから極端な情報に引っ張られないようにしたいと思っています。
怖がらせて薬を飲ませるのではなく、本人が納得できる形にしたい
だから、本人に、
「薬をやめたら大変なことになるよ!」
と怖がらせて飲ませるのも違うと思っています。
なぜ飲むのか。
どんなメリットがあるのか。
どんな副作用があるのか。
いつ減量を検討できるのか。
本人が主治医と話しながら、
納得できる形で治療を続けられること。
その方が、長い目で見れば大切だと思います。
家族会に参加して、一番持ち帰ったもの
家族会には、かなり重い話もありました。
正直、聞いていて怖くなった話もあります。
でも、私が持ち帰ったのは、
「統合失調症は怖い病気だ」
ということではありません。
治療が続いていることの大切さ
私が強く感じたのは、
症状が落ち着いた後こそ、治療を途切れさせないことが大切なんだ
ということでした。
退院した。
普通に話せる。
元気そう。
それだけを見ると、
「もう治ったんじゃない?」
と思ってしまいます。
本人だって、薬をやめたくなるかもしれません。
でも、初発後は、まだ再発について注意が必要な時期です。
私は、そこを家族として忘れないようにしようと思いました。
他の家庭の未来を、本人の未来にはしない
そして、もう一つ。
家族会で聞いた出来事は、その家族の物語です。
本人の未来ではありません。
それぞれの人に、違う経過があります。
私は、他の家庭の重い体験を聞いたからこそ、
逆に、
本人は本人として見ていこう
と思いました。
怖い未来を勝手に想像するのではなく、今の本人の状態を見る。
必要な治療を続ける。
困ったら早めに相談する。
その積み重ねでいいのだと思っています。
今振り返って思うこと
最初の私は、
「できれば薬を飲ませたくない」
と思っていました。
本人も、減らしたい気持ちを持っていました。
でも、外泊前に主治医から、
「病院に戻ってきてくれるよね?」
と聞かれたこと。
家族会で、退院後にさまざまな経験をした家族の話を聞いたこと。
そして、初回エピソード後の薬の中断と再発について、
自分で調べたこと。
その全部が重なって、
私の考えは変わりました。
薬をたくさん飲ませたいわけではありません。
できるなら、副作用は少ない方がいい。
必要最低限で済むなら、その方がいい。
でも、それを決めるのは、
「怖いから飲まない」
でも、
「怖いから一生飲み続ける」
でもない。
本人の状態を見ながら、主治医と相談していくこと。
そして、少なくとも今は、
まず症状をしっかり落ち着かせ、再発をできるだけ防ぐことを優先しよう。
私は、そう考えるようになりました。
あの時の本人の苦しさを、もう一度繰り返さないために。
家族としてできることを、一つずつやっていこうと思っています。
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参考にした情報
- 日本神経精神薬理学会・日本臨床精神神経薬理学会「統合失調症薬物治療ガイドライン2022」
- 初回エピソード精神病における抗精神病薬の維持療法と中止を比較したメタ解析・系統的レビュー


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