統合失調症になるまで、私は「妄想」という言葉を日常的な意味でしか知りませんでした。
「宝くじが当たったら何を買おうかな」
みたいな空想を、
「妄想してる」
と言ったりする、あの程度です。
でも、統合失調症でいう「妄想」はまったく違いました。
本人にとっては、
それが現実です。
こちらが、
「そんなこと起きていないよ」
と説明しても、
簡単には変わりません。
家族として初発を目の前で経験して、私は初めて、
「妄想って、こういうことなのか」
と知りました。
統合失調症の「妄想」とは
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)の「こころの情報サイト」では、妄想について、明らかに誤った内容を信じ、周囲が訂正しようとしても受け入れられない考えとして説明しています。
統合失調症では、幻覚とともに特徴的な症状の一つです。 (参考サイト:こころの情報サイト)
厚生労働省も、妄想を「ほかの人にはあり得ないと思えることを本人が確信してしまう」症状として紹介しています。 (参考サイト:厚生労働省)
「間違った考えをしている」だけではなかった
この説明を読んで、
私はとても納得しました。
本人は、
「ひょっとしたらそうかもしれない」
と言っているわけではありませんでした。
本人の中では、そうなっている。
こちらが事実を説明しても、
「そうだったのか」
とはなりません。
私から見れば現実ではない。
でも本人には現実。
初発時の数日間、
家族と本人がまったく別の世界を見ているような感覚がありました。
本人には現実のように感じられている
NCNPも、幻覚や妄想は本人にとって現実のように感じられるため、本人自身が病気による症状だと気づきにくいと説明しています。 (参考サイト:こころの情報サイト)
ここは、家族として知っておいてよかったことの一つでした。
最初の私は、
「それ違うよ」
「そんなこと起きてないよ」
と言えば分かってくれると思っていたからです。
でも、そんな簡単な話ではありませんでした。
わが家で最初に目立ったのは「被害的な話」だった
本人の様子がおかしくなった数日間、
過去の学校生活や人間関係について、
事実とは合わない話が次々に出てきました。
「みんなに嫌われている」
「自分は目をつけられている」
「昔の出来事が原因で悪く思われている」
というような内容です。
→ 入院3日前|一日中しゃべり続け、過去の話が現実と合わない。「これは普通の体調不良ではない」と思った日
被害妄想とは
NCNPでは、
「嫌がらせをされている」
「盗聴されている」
といった思い込みを被害妄想の例として紹介しています。 (参考サイト:NCNP病院)
ただ、実際に家族として見ていると、
教科書のようにきれいに分類できるものでもありませんでした。
本人の過去の記憶。
実際にあった出来事。
勘違い。
事実ではない内容。
それらが混ざりながら、一つの大きな話になっているように感じました。
一見すると話の筋が通っていることもあった
これが、私には難しかったところです。
最初から、
「完全に意味不明な話」
だったわけではありません。
途中まで聞くと、
「そんなことがあったのかな」
と思う。
ところが、よく聞いてみると時間や事実関係が合わない。
確認してみると、実際とは違っている。
でも本人は真剣です。
だから家族としても、
どこまでが実際の記憶で、どこからが症状なのか分からない
ということがありました。
「被害」だけでなく「自分が悪いことをした」という話も出た
さらに状態が進むと、
本人は、
自分が家族に危害を加えた
というようなことも言うようになりました。
実際には起きていません。
それでも本人は、
自分が重大なことをしてしまったと信じているようでした。
そして最終的には、
自分から警察へ電話しました。
→ 入院1日目①|明け方、子どもが警察を呼んだ。「もう家族だけでは無理だ」と思った日
「被害者」になったり「加害者」になったりした
私にはここがとても不思議でした。
ある時は、
自分が誰かから被害を受けている。
別の時は、
自分が誰かにひどいことをした。
そして、
「自分は悪い人間だ」
という方向へ話が進む。
家族から見ると、
被害と加害が入り混じっていました。
私は当時、
これをどう理解したらいいのか分かりませんでした。
日常語の「妄想」では説明できない重さだった
本人は面白半分で想像しているわけではありません。
その内容によって、
本当に怖がり、
本当に苦しみ、
本当に謝っていました。
だから私は、
統合失調症について調べる中で、
初めて精神医学でいう「妄想」という言葉の重さを理解しました。
私を「母親ではない」と言うこともあった
初発時には、
私との関係についても現実とは違う認識が出ました。
本人は、
私を家族ではないと言うことがありました。
「あなたと私は他人だ」
というような話です。
頭では症状だと分かっても、親としては腹が立った
今なら、
「あの時は症状が強かったんだ」
と思えます。
でも、その場ではそう簡単ではありませんでした。
ずっと育ててきた本人から、
突然、
「家族じゃない」
と言われる。
私も思わず腹を立ててしまいました。
→ 統合失調症の妄想に家族はどう接する?初発時に私が戸惑ったこと
妄想を「本人の本音」と受け取ってしまった
最初の私は、
本人の言葉を普通の会話として受け止めてしまいました。
だから、
「何でそんなこと言うの?」
と傷ついたり、
怒ったりしました。
でも後から、
本人には本人なりの現実があったのだと知りました。
あの時の言葉すべてを、
本人が普段から心の奥で思っていた本音
と受け取る必要はなかったのだと思っています。
なぜ説明しても訂正できないのか
これは、家族として一番戸惑ったことの一つでした。
たとえば、
「その人はそこにはいなかったよ」
「そんなことは起きていないよ」
「私はちゃんとあなたの母親だよ」
と説明します。
事実を出せば分かると思います。
でも、本人の確信は簡単には変わりませんでした。
「説得すればいい」と思っていた
私の中では、
間違っているなら、
正しい情報を伝える。
それで終わるはずでした。
普段の生活では、それで成立します。
でも妄想の場合、
周囲が訂正しても本人が受け入れられないこと自体が特徴の一つだと、後から知りました。 (参考サイト:こころの情報サイト)
だから、
「こんなに説明しているのに、なぜ分からないの」
という家族側の苛立ちは、
そもそもの前提が違っていたのだと思います。
本人を「論破」する話ではなかった
これは私自身の反省でもあります。
事実を並べて、
「ほら、あなたが間違っている」
と証明したところで、
本人の苦しさがなくなるわけではありません。
むしろ本人からすれば、
「こんなに明らかなことを家族が分かってくれない」
と感じる可能性もあるのだと思います。
家族としてどう接するかについては、別の記事で詳しく書きます。
→ 統合失調症の妄想に家族はどう接する?初発時に私が戸惑ったこと
独り言も妄想も、全部同じ症状ではない
初発時には、
独り言も非常に増えました。
私は当初、
独り言も、
事実とは違う話も、
会話がかみ合わないことも、
全部まとめて、
「妄想なんだろう」
くらいに考えていました。
でも、統合失調症の症状には、
幻覚・妄想だけでなく、思考の混乱、意欲低下、感情の変化、注意・記憶・処理速度など、さまざまなものがあります。
NCNPも、一つの症状だけで診断できるわけではなく、複数の症状や日常生活への影響が重要だとしています。 (参考サイト:NCNP病院)
独り言=幻聴とも限らない
独り言が急に増えた時、
後から私は、
「何か声が聞こえていて、それに返事をしていたのかな」
とも考えました。
でも、その時の独り言が何によるものだったのかは分かりません。
だから、このブログでも、
「独り言が多かった=幻聴だった」
とは断定しないようにしています。
幻聴については、本人から後になって聞いた話も含め、別の記事で整理します。
→ 統合失調症の幻聴とは?本人の体験を家族はどう理解すればいい?
妄想がある=その人全部がおかしくなる、ではなかった
家族として最も戸惑ったのは、
妄想がある一方で、
普通に見える本人も同時にいたことです。
入院前日にも、
動物と触れ合って喜んだ。
犬の散歩にも行った。
翌日の病院の問診票を自分で書いた。
そして入院当日にも、
私が建物を間違えると、
「たぶん、あっちじゃない?」
と普通に教えてくれました。
「普通」と「症状」が短時間で行き来するように見えた
さっきまで現実とは違うことを話していたのに、
次の瞬間には普通の会話をする。
私は、
「分かっているの?」
「分かっていないの?」
と何度も混乱しました。
でも、
人そのものが全部病気に置き換わるわけではない
と考えると、少し理解しやすくなりました。
本人らしい部分はちゃんとある。
その一方で、症状によって現実の捉え方が大きく変わる部分もある。
少なくとも、家族である私にはそう見えました。
妄想を知って、家族の見方も変わった
私は統合失調症になるまで、
「現実ではないことを信じている人」
に対して、
なぜ普通に考えられないのだろう、
と思っていた部分があったかもしれません。
でも実際に家族がそうなってみると、
見え方が変わりました。
本人は「嘘をついている」のではなかった
本人は、
家族を困らせるために話しているようには見えませんでした。
嘘をついて遊んでいるわけでもありません。
本人には、
本当にそう思えている。
だからこそ苦しんでいました。
「自分は悪い人間だ」
と思えば本当に謝る。
「警察が来る」
と思えば本当に玄関で待つ。
「犯罪を犯した」
と思えば本当に110番する。
本人の行動には、
本人なりの理由がありました。
今振り返って思うこと
私は初発時、
妄想の内容を何とか訂正しようとしていました。
「違うよ」
「そんなことないよ」
「事実はこうだよ」
と。
今なら、
まず理解すべきだったのは、
「本人には今、本当にそう感じられている」
ということだったのだと思います。
もちろん、
妄想に同意して、
「そうだね、本当に誰かに狙われているね」
と言えばいいという意味でもありません。
否定するのか。
肯定するのか。
どんな言葉ならいいのか。
そこが次に家族として悩んだことでした。
次の記事では、
私が実際に、
言い返したり、
訂正したり、
腹を立てたりしながら、
妄想のある本人にどう接すればいいのか戸惑った体験
を書こうと思います。
→ 統合失調症の妄想に家族はどう接する?初発時に私が戸惑ったこと


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