前日、私は、
「精神科へ行こう」
と決めました。
翌日に受診するつもりで、病院へ行く準備も始めていました。
ところが入院前日のこの日は、朝の本人を見ていると、
「少し落ち着いたのかな」
と思える時間もありました。
独り言が急に減っていたからです。
その一方で、夕方以降になると状態は大きく変わりました。
家族を家族だと思えなくなり、
自分が家族に危害を加えたと思い込み、
「警察が迎えに来る」
と言って玄関から動かなくなる。
そして、その日の深夜から翌明け方にかけて、
本人は自ら110番することになります。
前日の記録はこちらです。
→ 入院2日前|「精神科へ行こう」と腹をくくった日。もう世間体を気にしている場合ではなかった
朝、独り言が驚くほど減っていた
起きてきた本人を見ると、前日まであれほど続いていた独り言がかなり減っていました。
前夜に比較的眠れたことが影響していたのかもしれません。
私には理由は分かりません。
ただ、
「昨日より少し良くなった?」
と思うくらいの変化でした。
良くなったように見えると、期待してしまう
数日間ずっと様子がおかしかったので、少し静かになっただけでも安心します。
「ちゃんと眠れば戻るのかな」
「受診はするけれど、思ったほど深刻ではないのかもしれない」
そんな気持ちも、どこかにあったと思います。
でも、独り言が減ったからといって、他の違和感まで消えたわけではありませんでした。
本人の中では、現実とは違う話が続いていた
会話をしていると、事実とは合わない内容はまだ出てきます。
本人にとってはそれが現実であるかのようでした。
静かになった。
でも、元に戻ったわけではない。
この数日、
一部分だけを見ると良くなったように見えることが何度もありました。
気分転換になるかと思い、思い出のある牧場へ行った
翌日は病院へ行く予定でした。
そこで午前中は、少し気分転換になればと思い、本人が小さい頃から好きだった場所へ出かけることにしました。
動物のいる牧場です。
幼い頃、羊や牛、ヤギに会いたくて何度も通った場所でした。
お弁当を持って、一緒に出かけました。
ヤギや羊に触れて喜ぶ姿もあった
牧場では、ヤギや羊に触れました。
その時には、嬉しそうな様子も見られました。
その姿だけを見ると、
いつもの本人が戻ってきたようにも見えました。
私は少し安心したと思います。
一方で、景色を楽しむ余裕が本人にどこまであったのかは分かりません。
会話にはまだ現実とのずれがありました。
いつもの「半分どうぞ」がなかった
小さなことですが、私には気になったことがあります。
ソフトクリームを一本買いました。
普段の本人なら、
「半分どうぞ」
ということが多い子でした。
食事でも、二人で分けるものなら自然にこちらの分を考えてくれます。
でも、この日はそういう様子がありませんでした。
私が少し欲しいと言っても、そのまま全部食べました。
お弁当でも同じで、自分が食べたいものをそのまま食べていました。
もちろん、これだけなら何の意味もない行動です。
体調が悪くて余裕がなかっただけかもしれません。
ただ、
普段の本人を知っている家族としては、小さな違和感の一つでした。
帰宅後、翌日の受診に備えて問診票を書いた
帰宅すると、本人はパソコンで動画を見始めました。
ところが、
「頭に入らない」
と言います。
翌日受診する予定だった病院の問診票があったので、
「今のうちに一緒に書いておこう」
ということになりました。
字を書く姿は、いつもの本人だった
本人は自分で字を書きました。
その字を見ると、
いつもの本人そのもの
でした。
この数日、会話や行動には大きな変化が出ている。
なのに、文字を書いている姿は普段と変わらない。
私はこの頃、
「できること」と「できなくなっていること」の差に何度も戸惑いました。
問診票をこの時に仕上げておいてよかった
時間はかかりましたが、なんとか問診票を書き終えました。
後から振り返ると、夕方までに終わらせておいて本当によかったと思います。
その後、本人の状態はさらに変わっていったからです。
午後も、一人になりたくないように見えた
夕方には、飼っている犬の散歩にも一緒に行きました。
その後、私は夕食の準備を始めました。
本人はずっと台所にいました。
特にたくさん話をするわけではありません。
ただ、私のそばにいます。
買い物にも、家事にもついてくる
この日は、
買い物に行けばついてくる。
夕飯を作っていれば台所にいる。
洗濯物を干しに行けば、後ろについてくる。
そんな様子が続きました。
一人になるのが不安だったのか。
私が何かすることを気にしていたのか。
当時の私には分かりませんでした。
ただ、
普段とは違う距離感で、私のそばにいる
という印象がありました。
夕食後、一気に現実とのずれが強くなった
昼間には動物に触れて喜んでいました。
問診票も書けました。
犬の散歩にも行きました。
ところが夕食後になると、本人の話は一気に変わりました。
私を「家族ではない」と言い始めた
本人は私のことを名前ではなく、
「あなた」
と呼ぶようになりました。
そして、
「あなたと私は他人だ」
という趣旨のことを言いました。
それまで育ててきた自分の子どもから突然そう言われる。
私は頭では、
「今は本人の認識がおかしくなっている」
と分かっていたつもりでした。
でも、感情は別でした。
私も腹が立ってしまった
何度も続く現実とは違う話に疲れていたこともあります。
私は思わず怒ってしまいました。
「何を言っているの」
という気持ちだったと思います。
すると一緒にいた家族から、
「怒ったらだめ」
と言われました。
その言葉で、私は我に返りました。
本人は私を困らせようとして言っているわけではない。
わざと傷つけようとしているわけでもない。
少なくとも私は、そう考え直しました。
でも実際にその場で冷静に対応するのは、簡単ではありませんでした。
「家族に薬を盛った」と言い始めた
さらに本人は、
自分が家族に薬を盛った、
大変なことをした、
という趣旨のことを言い始めました。
もちろん、実際にはそのようなことは起きていません。
でも本人は、
自分が加害者であると強く思い込んでいる
ように見えました。
「警察が迎えに来る」と玄関から動かなかった
お風呂に入るよう声をかけても、なかなか動きません。
「警察が迎えに来るから」
というようなことを言って、玄関付近から離れようとしませんでした。
この数日、入浴には毎晩かなり時間がかかっていました。
でもこの日は、
行動できない理由そのものに、現実とは違う確信が入り込んでいる
ように見えました。
それでも何とか入浴しました。
親しい友人にも電話をかけた
入浴後、本人は親しい友人にLINE通話をしました。
私はすぐ近くにいました。
話していた内容は、
「自分はそんなにいい人間ではない」
「昔、人をいじめた」
というようなものでした。
私が知っている事実とは違う話も混ざっていました。
友人の連絡先を教えてもらった
私は今後何かあった時に連絡できるよう、
本人を通じて友人の電話番号を教えてもらいました。
この時点では翌日、病院へ行く予定です。
私は、
「何か必要になった時に連絡できる人を増やしておきたい」
と考えていたのだと思います。
夜になっても、私の行動を確認するようについてきた
本人は寝たと思っていました。
私は家事を続けていました。
洗濯が終わり、干しに行こうとすると、また本人が起きてきました。
台所をうろうろしています。
「何をしているのか」を確認されているように感じた
私が洗濯物を干しに行くと、本人もついてきました。
結局、一緒に洗濯物を干しました。
普段、そんなことはほとんどありません。
私には、
「私が何をするのか確認しているのかな」
とも見えました。
ただ、本当にそうだったのかは分かりません。
一人でいるのが怖かっただけかもしれません。
この日の私は、本人の行動一つ一つについて、
「なぜ?」
と考え続けていました。
「いつまで続くんだろう」と、私も疲れ切っていた
数日前から、私は本人の話を聞き続けていました。
仕事も思うようにできません。
お風呂に入ってもらうだけでも時間がかかる。
食事。
外出。
会話。
家事。
何をしていても本人の様子が気になります。
この日の夜、
「いつまでこれが続くんだろう」
と気が遠くなりました。
家族だからといって、ずっと冷静ではいられない
今振り返ると、
私もかなり疲れていました。
本人を助けなければと思っている。
翌日は精神科へ行くと決めている。
それでも、現実では感情的になることもありました。
家族だから全部うまく対応できるわけではありません。
この日の私は、
怒ってしまい、
家族に注意され、
また本人のそばに戻る。
そんな状態でした。
そして明け方、本人は自分で110番した
その後、家の中はいったん静かになりました。
私は、
「明日になれば病院へ行ける」
と思っていました。
でも、その明け方。
本人は自分で110番しました。
「家族に薬を盛って殺そうとした。捕まえてほしい」
というようなことを警察に伝えたようでした。
もちろん、実際には起きていないことです。
しかし、本人にとっては、
自分が重大な犯罪を犯そうとしたという確信があったのだと思います。
そして警察官が家に来ました。
ここから、すでに公開した「入院1日目」へつながります。
→ 入院1日目①|明け方、子どもが警察を呼んだ。「もう家族だけでは無理だ」と思った日
入院前日を今振り返って
この日は、とても不思議な一日でした。
朝は独り言が減っていました。
牧場では動物に触れて喜んでいました。
いつもの字で問診票も書きました。
犬の散歩にも行きました。
一見すると、
「できていること」がたくさんありました。
でも、その日の夜には、
私を家族ではないと言い、
自分が家族に危害を加えたと思い込み、
警察が来ると信じて玄関で待っていました。
そして明け方には、本当に自分で警察を呼びました。
この時の経験から私は、
普通に見える瞬間があることと、病状が軽いことは同じではない
のだと感じました。
もちろん、それは今だから振り返って言えることです。
その日の私は、
「明日、精神科へ連れていけば何とかなる」
と思いながら、一日を乗り切ることで精いっぱいでした。
入院まで、あと数時間でした。


コメント