入院13日目。
面会で、私はいつものように聞きました。
「何か困ってることない?」
この頃から、本人と私は、
「今できないこと」
「困っていること」
を一つずつ見つけて、どうすれば暮らしやすくなるか考えるようになっていました。
すると本人が、ため息まじりに言いました。
「頭が痛くない日は、今度はお腹が痛いんだよ」
そして、
「悩まない日がないんだけど……参ったね」
と。
今度の問題は、お腹でした。
お腹が痛い原因は、便秘だった
本人に聞くと、どうやら便秘で苦しんでいるようでした。
これは、それまでの本人には、ほとんどなかった悩みです。
もともとは便秘体質ではなかった
むしろ、便秘体質なのは私の方です。
本人はどちらかというと、お腹がゆるくなりやすいタイプでした。
だから、本人自身も、
まさか入院して、便秘で悩むことになるとは思っていなかったようです。
そして本人が、笑いながら言いました。
「ママみたいに、ふんづまりだよ(笑)」
……。
そこは、母に似なくてよかったところだったんだけどね(笑)。
この便秘が、その後もしばらく悩みの種になった
この時は、
「入院中だからかな」
くらいに思っていました。
でも、振り返ると、便秘はこの先も、
本人の生活の質に関わる悩みの一つになりました。
抗精神病薬を服用している人では便秘が問題になることがあり、日本の統合失調症薬物治療ガイドラインでも、抗精神病薬治療中の慢性便秘について、薬の影響だけでなく身体疾患や併用薬など原因を確認しながら対応することが勧められています。
だから、この日の時点で、
「薬のせいだ」
と決めつけることはできません。
入院して活動量が減ったこと。
食事量がまだ十分戻っていなかったこと。
生活リズムが変わったこと。
薬の影響。
いろいろな可能性があったのだと思います。
顔のぶつぶつも、私はずっと気になっていた
実は、面会するたび、私は本人の顔も気になっていました。
ぶつぶつが、かなり増えていたからです。
もともと、肌がとてもきれいな子だった
本人は昔から、肌がとてもきれいでした。
中学や高校の頃も、周囲から、
「何してるの?」
と聞かれるくらいでした。
特別なことをしているわけでもないのに、肌荒れとはほとんど無縁。
そんな子でした。
それが、入院してから、その面影がないくらい、顔にぶつぶつが増えていました。
私は、
「これも薬なのかな」
「生活が変わったからかな」
と、また心配しました。
ただ、この時点では原因は分かりません。
便秘との関係も、私には判断できませんでした。
ただ、
本人の体に、今までなかった変化がいろいろ出ている
ことだけは、はっきり分かりました。
本人なりに便秘対策はしていた
本人も、何もしていなかったわけではありません。
自分なりに、どうしたら出るか考えていたようです。
そして、その一つが、
水分を取ること
でした。
「なるべくお茶を飲んでる」
本人は、便秘対策のつもりもあって、なるべく水分を取っていると言いました。
私は毎日、家で作ったお茶を、大きな水筒に入れて持って行っていました。
この頃は、
2Lの水筒。
さらに、万が一私が持って来られない時のために、500mlのペットボトルのお茶も、何本か置いてありました。
本人は最初、ペットボトルのお茶を嫌がっていたので、私は、あくまで非常用のストックのつもりでした。
でも、どうも、そちらも飲んでいるらしい。
計算すると、1日に3Lくらい飲んでいた
話を聞きながら、私は計算しました。
2Lの水筒。
それに、ペットボトル。
……。
え。
3Lくらい飲んでない?
私は、かなり驚きました。
以前はペットボトルをあれほど嫌がっていたのに、気づけば、ストックまで飲んでいる。
便秘だから水分を取ろう、という本人なりの工夫もあったのでしょう。
でも、3Lとなると、私は別のことが心配になりました。
「そんなに飲んで大丈夫なの?」
ここで、私の中に、ずっと昔の記憶が戻ってきました。
私は以前、精神疾患のある方が生活する施設で、実習した経験があります。
その時、スタッフから、水分の取りすぎに気をつけるよう言われたことがありました。
私の記憶では、
「水分を取りすぎると、薬の効果が薄くなるから」
というような説明を受けていました。
だから私は、本人が1日3L近く飲んでいると知って、
「そんなに飲んだら、薬は大丈夫なの?」
と思いました。
今調べると、「薬が薄まる」だけの話ではなかった
この点は、当時の私の記憶と、今調べて分かったことを分けておきます。
統合失調症では、多量の水分を摂取する「多飲」がみられることがあり、
問題になるのは、単純に「薬が水で薄まる」という話ではありません。
大量に水分を取ることで血液中のナトリウム濃度が低下し、水中毒につながる場合があります。
日本の統合失調症薬物治療ガイドラインでは、精神科病院の患者の10〜20%に多飲、3〜4%に水中毒がみられたという報告が紹介されています。重い低ナトリウム血症では、意識障害やけいれんなどにつながることがあります。
もちろん、
3L飲んだから即、水中毒
という意味ではありません。
必要な水分量は、体格や食事、気温、腎機能などによっても違います。
ただ、本人の場合は、
「思っていたよりかなり飲んでいる」
ということ自体を、医療スタッフに伝える必要があると思いました。
→ 【関連記事】
統合失調症で水を飲みすぎる?入院中に気づいた多飲と水分量
酸化マグネシウムは「飲んでも出ないから嫌」
便秘については、看護師さんからも話がありました。
本人には、酸化マグネシウムが処方されていたようです。
酸化マグネシウムは、便秘に使われる薬です。
ただ、本人は、もともと薬を増やしたくないタイプです。
「飲んでも出ないなら、飲む意味ない」
看護師さんとしては、
「酸化マグネシウムを飲んでくれれば」
という感じでした。
でも本人は、
「飲んでも出ないから、飲む意味がない」
と。
うん。
本人の気持ちとしては、確かにそうなる(笑)。
もちろん、薬の使い方や調整は、本人だけで決めるものではありません。
効き方や便秘の程度を医療スタッフに伝えて、相談しながら調整する必要があります。
日本のガイドラインでも、抗精神病薬による便秘が疑われる場合には原因や重症度を確認し、必要に応じて便秘治療薬を追加することなどが検討されています。
その後、別の便秘対策も試すことになった
酸化マグネシウムだけでは、本人自身が効果を感じられなかったようです。
そこで、病院では、別の便秘対策も試す流れになっていました。
このあたりから、
「精神症状が落ち着けば終わり」
ではないんだな、と私は思うようになりました。
便秘。
頭痛。
光。
音。
睡眠。
食事。
生活していくには、こういう一つ一つも大事なんだ。
まさに、
QOLの問題でした。
「食欲が増える」は本人にはまだ感じられなかった
入院した頃、夜に飲んでいる薬について、食欲が増すことがあると説明を受けていました。
でも、本人には、少なくともこの頃、
「食べたくて仕方がない」
という感じはありませんでした。
むしろ、病院の食事を完食するだけで、精いっぱい。
食欲そのものは、まだ強くありません。
そして今度は、便秘でお腹が痛い。
私は、
「これじゃ食欲どころじゃないよね」
とも思いました。
ただ、
便秘があったから薬による食欲増加が出なかった
と因果関係まで言うことはできません。
本人の場合、この時点では、
「食欲が増えたという実感はなかった」
というところまでです。
「頭か、お腹か。悩まない日がない」
この日の本人の言葉が、私は妙に残っています。
「頭が痛くない日は、お腹が痛い」
「悩まない日がないんだけど」
本当に、そうでした。
症状が少し落ち着いてくる。
すると、今度は別の困りごとが見えてくる。
精神症状だけを見ていればいいわけではなかった
入院直後は、
妄想がどうなるか。
食べられるか。
水分が取れるか。
保護室から出られるか。
それだけで精いっぱいでした。
でも、少し落ち着いてくると、本人が日常生活で何に困っているのかが、どんどん見えるようになりました。
光。
音。
集中力。
便秘。
頭痛。
本人にとっては、病名そのものより、
「今日これがつらい」
の方が、よほど現実的な問題です。
今振り返って思うこと
入院13日目。
私は本人に、
「何か困ってない?」
と聞きました。
返ってきたのは、
「頭が痛くない日は、お腹が痛い」
でした。
原因は、便秘。
それまで、便秘とはほとんど縁がなかった本人です。
本人は、
「ママみたいに、ふんづまりだよ(笑)」
と笑っていました。
でも、本人なりに水分を増やすなど、何とかしようとしていました。
そして計算してみると、お茶を一日に、おそらく3Lほど飲んでいる。
今度は私が、
「それ、飲みすぎじゃない?」
と心配になる。
一つ解決しようとすると、また別の疑問が出てくる。
本当に、毎日そんな感じでした。
でも、この頃から私が考え始めていた、
「できないことをどうしたらできるようにするか」
という作戦会議は、頭の働きだけの話ではありませんでした。
便秘をどうする。
光をどうする。
食事をどうする。
眠りをどうする。
本人が、少しでも楽に暮らせる方法を探す。
それも全部、回復の一部なのだと思うようになりました。
そして、この時にはまだ、私は知りませんでした。
この便秘が、この先も、なかなか手ごわい相手になることを。
……。
本当に、
便秘対策サイトでも作るか(笑)
と思うくらいに。
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