入院7日目。
この日は仕事が休みだったので、午前中に病院へ行きました。
本人はすでに、保護室から4人部屋へ完全に移っています。
→ 入院6日目|保護室前のロッカーが空っぽだった。大部屋へ移った本人と「薬を続けること」を考え始めた日
大部屋になってからは、他の患者さんのプライバシーもあるため、家族が病室へ入ることはできません。
面会室で、基本は15分。
その頃から、面会前のちょっとしたルーティンもできていました。
本人が部屋から、洗濯物と、空になった水筒を持ってくる。
私はそれを受け取り、前日の洗ったものと、家で作ったお茶を持ってくる。
そんな毎日でした。
面会に来た本人は、少し眠そうだった
面会室に来た本人は、どことなくけだるそうでした。
髪の毛も少しぼさっとしています。
「あ、寝てたな」
という感じでした。
夜中に何度か目が覚めていた
本人に聞くと、夜は21時頃に寝たそうです。
でも、途中で目が覚める。
やることもないので、トイレに行く。
そして、また寝る。
そんな感じだったようです。
大部屋に移ったばかりで、周囲の生活音もまだ気になります。
前日には、夜中の見回りに来た看護師さんを怖がって、そこから眠れなくなったとも話していました。
まだ、朝までぐっすり、とはいかないようでした。
「耳栓をもってこようか?」
翌日の持ち物が1つ増えました。
朝5時には、もう目が覚めてしまう
そして、朝5時頃には、また目が覚めてしまったそうです。
本人はもともと、かなり朝型です。
寝坊するようなタイプでもなく、朝起きると、自分なりのルーティンをこなす子でした。
だから、5時に目が覚めること自体は、それほど本人らしくないわけではありません。
ただ、ここは病院。
いつもの生活とは違います。
やることも、ほとんどありません。
朝5時から、デイルームで新聞を読んでいた
起きた本人は、デイルームへ行ったそうです。
そして、新聞を読みました。
この頃の本人には、
「活字を読んでも頭に入ってこない」
という不安がありました。
そこで、ただ黙って読むのではなく、
声に出して読む
ことを試すようになっていました。
新聞を声に出して読んでみる
本人は、新聞を声に出して読んでいました。
黙って読むより、その方が内容が入りやすいようでした。
大部屋へ移ったばかりの頃は、文字を見ても、うまく頭に入ってこない感じがあったようです。
でも、声に出す。
耳でも聞く。
そうすると、少し違う。
本人なりに、
「どうすれば今の頭でも入りやすいか」
を探していたように思います。
百人一首を3つやって、また疲れた
それから、以前使っていた百人一首のワークも少しやったそうです。
3つ。
そして、
「あぁ、疲れたな〜」
となって、また部屋へ戻った。
ベッドに横になる。
そして、また寝る。
起きたら、朝ごはん。
そんな一日の始まりでした。
日曜日の病院は、とにかく暇だったらしい
この日は日曜日。
本人いわく、
「日曜日はやることないから暇」
だそうです。
平日はOTなどがありますが、休日になると、さらに時間を持て余すようでした。
「あぁ〜暇だな、ちょっと頭痛いな」で、また寝る
本人の説明を聞くと、なんともゆるい一日です。
「あぁ〜暇だな」
「微妙に頭痛いなぁ」
とうだうだしている。
気づいたら、また寝ている。
起きる。
食べる。
また横になる。
ほんの1週間前まで、家では本人がこんな生活をすることなんて、ほぼありませんでした。
こんなにダラダラするのは、たぶん人生で初めて
本人は、何かやることがあれば、きっちりやる子でした。
朝も起きる。
勉強する。
やるべきことをやる。
寝坊して、一日中ダラダラしている、というタイプではありません。
それが今は、起きる。
少し何かする。
疲れる。
寝る。
食べる。
また寝る。
私は、
「こんな生活、たぶんこの子の人生で初めてだな」
と思いました。
「ダチョウになっちまったね」
そんな話をしている途中で、本人がふっと言いました。
「ダチョウになっちまったね」
担当の看護師さんは、一瞬、固まっていました。
たぶん、何の話か分からなかったのだと思います(笑)。
本人なりの「今の頭」のたとえだった
本人は昔から、ちょっと変わったたとえを使って、物事を面白く言うところがあります。
この時も、自分の今の状態を、本人なりの「ダチョウ」のイメージに重ねたようでした。
少し動いたら、
「あれ、何してたんだっけ」
みたいになる。
以前の自分ほど、頭がしゃきっと働いている感じがしない。
そんな自分を、ちょっと笑いに変えて、
「ダチョウになっちまった」
と言ったのだと思います。
私は「ダチョウではないな(笑)」と返した
私は、思わず笑いました。
そして、
「でも私のこと分かってるから、ダチョウではないな(笑)」
と返しました。
本人も笑いました。
そのやり取りが、なんだか、すごく懐かしかったです。
ほんの数日前、本人は私を家族ではないと言いました。
私を疑いました。
何もかもが怖くなっていました。
それが今、私の前で、自分の状態を冗談にして笑っている。
私は、その時、
「あぁ、娘がここにいる」
と思いました。
頭が以前のように働かないことを、本人自身も感じていた
本人は、もともと勉強が得意な子です。
特に、数学や物理、化学と言った理系科目が得意で、難関大学向けの大学別模試でも、上位に入ることがありました。
そんな本人だからこそ、今までとの違いには、かなり敏感だったのだと思います。
「頭がポンコツになった」と感じていたのかもしれない
本人自身、以前のように頭が働かない感覚があったのでしょう。
活字を読んでも入ってこない。
少しやると疲れる。
集中が長く続かない。
眠くなる。
本人にとっては、
今まで当たり前にできていたことが、急にうまくできなくなっています。
だから、
「ダチョウになっちまった」
という冗談の中には、本人なりの戸惑いもあったのだと思います。
でも、それだけで能力が失われたとは思わなかった
一方で、新聞を読む。
百人一首を思い出す。
私との冗談が成立する。
自分の状態を言葉にする。
そういうことは、ちゃんとできています。
この頃の私は、
「前と同じようにできない」
という部分ばかり見て、心配しそうになっていました。
でも、
できていることも、ちゃんとある。
それを見落とさないようにしたいと思いました。
→ 統合失調症の認知機能障害とは?記憶・注意・処理速度について家族が調べたこと
今度は「もう犬だよ(笑)」
そして本人は、自分の今の生活を、今度は家で飼っている犬にたとえました。
「もう、犬だよ(笑)」
「時間になったら食べて、あとは寝てる」
本人いわく、時間になったら、ご飯を食べる。
そのほかは、寝る。
また時間になったら、食べる。
「何やってんだかね」
と、自分で笑っていました。
私は、また笑いました。
本当に、数日前のことを考えたら、こうやって一緒に笑えていること自体が、すごいことのように感じました。
「休む」ということを、本人はほとんどしてこなかった
本人にとって、こんなに何もしない時間は、たぶん初めてでした。
ずっと頑張ってきた子です。
勉強する。
目標に向かう。
決めたことはやる。
それが、
今は、
食べて、
寝て、
少しやって、
また寝る。
本人は、
「何やってんだかね」
と言っていました。
でも私は、今なら、
それでいいんだと思います。
入院して、まだ1週間です。
今は、何かを成し遂げる時間ではなく、休む時間なのかもしれません。
いつもの本人らしい冗談が、一番うれしかった
この日は、何か大きな治療の変化があったわけではありません。
薬が変わったわけでもない。
劇的に症状が消えたわけでもない。
大部屋の生活には、まだ疲れている。
夜中に起きる。
頭痛もある。
日中も寝ている。
それでも、私には、大きな変化がありました。
冗談を言う本人が戻ってきた
「ダチョウになっちまった」
「もう犬だよ」
本人は、自分の今の状態を、笑いに変えて話しました。
昔から、そういう子でした。
ちょっと変わった見方をして、それを面白く言う。
それを聞いて、私は、病気の向こう側に、いつもの本人を見つけた気がしました。
「娘が戻った」ではなく「ずっとここにいた」のかもしれない
この頃の私は、
「娘が戻ってきた」
と思っていました。
でも、今振り返ると、少し違うのかもしれません。
本人は、いなくなっていたわけではない。
症状が強い時も、ずっと本人はそこにいた。
ただ、妄想や恐怖や混乱が強すぎて、私からは見えにくくなっていただけなのかもしれません。
そして、症状が少し落ち着くにつれて、本人らしい言葉や、本人らしい笑いが、また私にも見えるようになってきた。
そういうことだったのかもしれません。
今振り返って思うこと
入院7日目。
4人部屋へ移った本人は、少し疲れていました。
夜中に起きる。
朝早く目が覚める。
新聞を読んで、
百人一首を少しやる。
疲れたら、また寝る。
日曜日は、とにかく暇。
頭も少し痛い。
そして、また寝る。
今までの本人からは、想像できないくらい、何もしない一日です。
でも、その中で、
「ダチョウになっちまったね」
と本人が笑いました。
そして、
「もう犬だよ。時間になったら食べて、あとは寝てる」
とまた笑いました。
私には、それが本当に嬉しかったです。
頭が以前のように働かない不安は、本人自身にもありました。
私にもありました。
でも、本人らしい例え。
本人らしい冗談。
本人らしい笑い。
それを聞いて、私は、
「あぁ、娘がここにいる」
と思いました。
入院して、ちょうど1週間ほど。
できないことを数えるだけではなく、こうして戻ってきた本人らしさも、ちゃんと覚えておこうと思います。
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